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非荷重と関節固定後の廃用における関節軟骨および軟骨下骨の変性機序の解明

Thinning of articular cartilage after joint unloading or immobilization. An experimental investigation of the pathogenesis in mice.
著者:Nomura M, Sakitani N, Iwasawa H, Kohara Y, Takano S, Wakimoto Y, Kuroki H, Moriyama H.
雑誌:Osteoarthritis Cartilage. 2016 Dec 1. pii: S1063-4584(16)30424-1. doi: 10.1016/j.joca.2016.11.013.
  • メカニカルストレス
  • 関節軟骨
  • 軟骨下骨

野村 将人
右:森山英樹教授、左:野村将人(筆者)

論文サマリー

 関節軟骨が健常であるためには、体重負荷や関節運動によってうまれる適度なメカニカルストレスが必要不可欠である。しかし、非荷重や関節固定といったメカニカルストレスが減弱した状態(廃用)における関節軟骨の形態学的変化、軟骨細胞の動態、関節軟骨と軟骨下骨の変性の関連については不明な点が多い。本研究では、非荷重と関節固定の2種類の動物モデルを用いて、関節軟骨と軟骨下骨の廃用を多角的に調べた。

野村 将人

 非荷重後と関節固定後には、関節軟骨の非石灰化層の厚さと、これに石灰化層の厚さを併せた全層の厚さが、ともに減少していた。これらの所見は、非荷重後と関節固定後のそれぞれで、関節面が接触していない領域に顕著であったことから、関節軟骨の厚さの維持には関節面の接触が重要であることが明らかになった。また軟骨細胞数は関節固定後でのみ減少していたことから、軟骨細胞の生存には関節運動が必須であることも明らかになった。非石灰化層において、非荷重後と関節固定後ともに、トルイジンブルー染色性の低下、アグリカンの発現減少、ADAMTS-5の発現増加が認められた。これらのことから、メカニカルストレスの減弱により、アグリカンをはじめとするプロテオグリカンの分解が促されることが明らかになった。非石灰化組織への石灰化基質の沈着を阻止する働きをもつと推測されているプロテオグリカンの減少と、骨や軟骨の石灰化に必要であると考えられているALP活性の亢進を通じて、関節軟骨の非石灰化層が石灰化層に置き換わった結果、非石灰化層の厚さが減少することが見出された。石灰化層においては、RANKL/OPG比の増加とALP活性の抑制が認められたことから、メカニカルストレスが減弱した状態では、関節軟骨の軟骨細胞が、軟骨下骨における破骨細胞の活性化や骨基質の形成の抑制に働く可能性が示された。さらに軟骨下骨の萎縮と骨髄腔の拡大に伴い、骨面に局在する破骨細胞マーカーのTRAP活性が、関節軟骨の石灰化層にまで浸食していた。骨基質のみならず軟骨基質をも分解・吸収することが示されている破骨細胞の働きによって、関節軟骨の石灰化層が骨や骨髄腔に置換された結果、関節軟骨の全層の厚さが減少することが見出された。

 変形性関節症の発生機序では、軟骨細胞の肥大分化が重要な役割を担うと考えられている。しかし本研究では、肥大軟骨細胞マーカーであるX型コラーゲンの局在に変化は認められなかった。このことから、廃用による関節軟骨の変性は、変形性関節症などの他の関節軟骨の変性疾患とは異なる、特異的な発生機序をもつことが明らかになった。

野村 将人

著者コメント

 変形性関節症の研究に関連して、過剰なメカニカルストレスが関節軟骨の変性を引き起こすことは広く知られていますが、逆のメカニカルストレスが減弱した廃用による変性の機序はほとんど分かっていませんでした。本研究では、体重負荷や関節運動の減少に起因する関節軟骨と軟骨下骨の変性を多角的に分析することで、その機序の一端を明らかにすることができました。今後さらに、廃用による関節軟骨の変性の全容解明に全力を尽くしてしていきたいと考えています。最後に、本研究にあたり、森山英樹教授をはじめご指導いただきました先生方に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。(神戸大学大学院 保健学研究科・野村 将人)