日本骨代謝学会

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核内受容体AhRはRANK/c-Fosシグナル伝達経路を介して破骨細胞の分化を制御する

The nuclear receptor AhR controls bone homeostasis by regulating osteoclast differentiation via the RANK/c-Fos signaling axis.
著者:Izawa T, Arakaki R, Mori H, Tsunematsu T, Kudo Y, Tanaka E, Ishimaru N.
雑誌:Journal of Immunology 197, 4639-50 (2016).
  • AhR
  • 破骨細胞分化
  • c-Fos

井澤 俊

論文サマリー

 ダイオキシン受容体として知られる転写因子AhR(aryl hydrocarbon receptor)は、様々な組織に発現がみられ、最近になって一部の免疫細胞にも高発現していることが明らかになってきている。これまでAhR がRANKLシグナルを介した破骨細胞形成においても重要であることが報告されているものの、破骨細胞におけるAhRの発現調節やAhRによる破骨細胞形成の詳細なメカニズムについては未だ不明な点が多い。本研究では、AhRの発現はマクロファージから破骨細胞分化における転写因子c-Fosの発現上昇と同じ比較的早い分化ステージで上昇し、骨恒常性を制御する因子となることが明らかとなった。さらに、AhRによる破骨細胞分化にはRANKLシグナルを介したc-Fosの転写活性、ミトコンドリア生合成にはPPAR-γのコアクチベーターであるPGC-1βを介した2つの独立した下流のシグナル伝達経路が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

 また、近年の疫学的研究により、タバコ煙中にはAhRを活性化しうる有害物質BaP (benzo [a] pyrene)が極めて高レベル含まれており、喫煙によって生体内のAhRは活性化され、炎症関連の病態である骨粗鬆症や関節リウマチとの関連が示唆される。そこでin vitroにおいてマウス骨髄より培養した前破骨細胞にBaPによる刺激を行ったところAhR/c-Fosシグナル伝達経路が破骨細胞分化調節に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに、AhR欠損マウスでは、骨折の病的状況下において仮骨部への破骨細胞の集積が少なく、その結果、仮骨部のリモデリング不全により骨折治癒が遅延することを見出した。以上のことから、RANKL/AhR/c-Fosシグナル経路が破骨細胞分化において重要な役割を果たし、骨代謝疾患における治療標的となることが示唆された。

井澤 俊

著者コメント

 今回ご紹介した論文は、私が米国ワシントン大学のTeitelbaum先生のラボに留学中に破骨細胞の研究に携わり、帰国後これまでの骨研究を生かすべく継続していた仕事です。大学院時代からお世話になっている徳島大学大学院口腔分子病態学分野の石丸直澄教授、新垣理恵子准教授の指導のもと、実験データを少しずつ積み重ね、学内共同研究として成果をまとめることができました。また、口腔分子病態学分野、口腔顎顔面矯正学教室の皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます。(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔顎顔面矯正学分野・井澤 俊)