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非古典的HLA遺伝子HLA-DOAが発現量変化を介して関節リウマチの発症に関わる

Contribution of a non-classical HLA gene, HLA-DOA, to the risk of rheumatoid arthritis
著者:Okada Y, Suzuki A, Ikari K, Terao C, Kochi Y, Ohmura K, Higasa K, Akiyama M, Ashikawa K, Kanai M, Hirata J, Suita N, Teo YY, Xu H, Bae SC, Takahashi A, Momozawa Y, Matsuda K, Momohara S, Taniguchi A, Yamada R, Mimori T, Kubo M, Brown MA, Raychaudhuri S, Matsuda F, Yamanaka H, Kamatani Y, Yamamoto K.
雑誌:American Journal of Human Genetics, 2016, 99:366-374, doi: 10.1016/j.ajhg.2016.06.019.
  • 関節リウマチ
  • ゲノム解析
  • HLA遺伝子

岡田 随象

論文サマリー

 関節リウマチは関節の炎症と破壊を生じる自己免疫疾患であり、発症への遺伝的要因の関与が知られている。複数存在する疾患感受性遺伝子領域の中でも、ヒト6番染色体短腕上に位置する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域に顕著な関連が認められ、同領域内に存在するヒト白血球抗原(HLA)遺伝子が発症リスクを有すると考えられている。しかしながら、HLA遺伝子配列は構造が複雑であり、アッセイコストも高額なため、具体的にどのHLA遺伝子の、どの遺伝子配列が発症リスクを有するのか、については詳細な解明に遅れが生じていた。

 我々は、HLA遺伝子配列をスーパーコンピューター上で網羅的に解析する遺伝統計解析手法であるHLA imputation法を活用することにより、約3万人分の日本人集団の関節リウマチのゲノムデータの解析を実施した。その結果、既に発症リスクが報告されていたHLA-DRB1、HLA-DPB1、HLA-Bといった古典的HLA遺伝子に加えて、非古典的HLA遺伝子の一つであるHLA-DOA遺伝子が、独立に抗CCP抗体陽性の関節リウマチの発症リスクを有することが明らかとなった。HLA-DOA遺伝子におけるリスク遺伝子配列は、HLA-DOA遺伝子のアミノ酸配列を変化させない同義置換であったが、一方でHLA-DOA遺伝子の発現量を低下させていることが明らかとなった。同定されたHLA-DOA遺伝子配列の発症リスクを人種間で比較したところ、日本人集団に加え欧米人および東アジア人集団でも抗CCP抗体陽性の関節リウマチの発症リスクが追認された。

 関節リウマチを含め、HLA遺伝子配列における疾患発症リスクを検討したこれまでの研究では、主に古典的HLA遺伝子のアミノ酸配列の変化が発症リスクをもたらす例が報告されていた。我々の研究は、これまで注目されていなかった非古典的HLA遺伝子が、遺伝子発現量の変化を介して疾患発症を生じるという、新たなメカニズムを報告したものと考えられる。免疫学における非古典的HLA遺伝子の機能的意義や疾患病態への関与も近年解明が始まったばかりであり、本研究の知見の応用が期待される。

岡田 随象
図:古典的HLA遺伝子におけるアミノ酸配列の変化に加えて、非古典的HLA遺伝子の遺伝子発現量の変化が関節リウマチの発症に関わる(プレスリリース資料より)。

著者コメント

 「MHC領域内のどのHLA遺伝子が疾患発症リスクを有するのか?」という問いは、関節リウマチのゲノム解析における数十年来の研究テーマでした。1980年頃にHLA-DRB1遺伝子の関与が報告されて以来、しばらく停滞期が続いていましたが、ゲノムデータの大規模化やHLA imputation法の開発により、近年、新たな知見が次々と発見されています。筆者としても、これまで注目されていなかった非古典的HLA遺伝子に発症リスクが見いだされたのは全くの予想外で、HLA遺伝子解析の奥深さを感じた次第です。MHC領域内には、その他にもHLA様遺伝子や偽HLA遺伝子など、まだまだ多数のHLAファミリー遺伝子が数多く含まれており、これらの遺伝子が疾患病態にどのように関わっているのか、調べていきたいと考えています。(大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学・岡田 随象)