日本骨代謝学会

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心臓その他の臓器から分泌されるOsteocrinはゼブラフィッシュ頭部の骨形成と軟骨形成に寄与する

Osteocrin, a peptide secreted from the heart and other tissues, contributes to cranial osteogenesis and chondrogenesis in zebrafish.
著者:Chiba A, Watanabe-Takano H, Terai K, Fukui H, Miyazaki T, Uemura M, Hashimoto H, Hibi M, Fukuhara S, Mochizuki N.
雑誌:Development. 2017 Jan 15;144(2):334-344.
  • 心臓
  • ペプチド
  • 骨形成

千葉 彩乃

論文サマリー

 心臓は循環をポンプとして司るだけでなく内分泌器官としても機能している。しかし、心臓から分泌されて遠位の臓器に作用するホルモンは、ナトリウム利尿ペプチド (NP) 以外には発見されていない。そこで心臓の内分泌器官としての新たな機能を探索するために、ゼブラフィッシュの心臓に発現する分泌因子を探索した。

 心臓に発現する分泌因子を探索するために、心筋細胞に発現する遺伝子をRNA-Seqで網羅的に解析した結果、分泌性ペプチドホルモンとして骨形成調節分子のOsteocrin (Ostn)を同定した。

 生体内のOstnの機能を明らかにするために、ostn欠損ゼブラフィッシュ (ostnncv105) を樹立した。野生型と比較してostnncv105の頭部は短縮し、骨形成抑制の可能性が考えられた。頭部の膜性骨と軟骨の長さを測定したところ、どちらもostnncv105で短縮した。さらに、ostnncv105の膜性骨短縮は、心筋細胞特異的にOstnを過剰発現することで回復したため、心臓から分泌されたOstnが骨形成に寄与しうると考えられた。

 Ostnによる膜性骨形成促進作用はこれまで報告されていない。そこで、Ostnによる膜性骨形成促進機構を明らかにするため、ostnncv105で短縮する副蝶形骨 (parasphenoid, ps) を解析した。ostnをノックダウンしても、psの骨芽細胞の分化・増殖・アポトーシスには影響を与えなかった。しかし、骨芽細胞でのYap1/Wwtr1による転写活性をGFPでモニターするゼブラフィッシュでは、ostnノックダウンによってpsでのGFP蛍光強度が増大したことからOstnによるYap1/Wwtr1を介した転写調節機構が機能することがわかった。骨芽細胞特異的にYap1/Wwtr1のドミナントネガティブ体 (Ytip) を発現するとpsは伸長し、核内移行型のYap1 (Yap1-5SA) を発現するとpsは短縮したことから、OstnはYap1/Wwtr1の核外移行を促進して膜性骨を伸長すると考えられた。

 マウス骨芽細胞様MC3T3-E1細胞を使用してOSTNがYAP1/WWTR1の核外移行を促進するメカニズムを検討した。OSTNはNPのクリアランス受容体であるNPR3に結合し、NPの作用を増強すると知られている。MC3T3-E1細胞をOSTNで刺激すると、単独ではYAP1/WWTR1の核外移行を変化させないが、C型ナトリウム利尿ペプチド (CNP) 刺激による核外移行を増強した。この核外移行は、CNPの受容体であるNPR2の発現抑制、あるいはその下流のプロテインキナーゼG (PKG) の阻害剤によって打ち消されたことから、OSTNはCNP-NPR2-PKGを介したYAP1/WWTR1核外移行を促進すると考えられた。

 以上の結果より、ゼブラフィッシュの心臓はOstnを分泌し、骨形成(軟骨内骨化・膜性骨化)を調節する器官の一つとして機能することを示すことができた。

千葉 彩乃

著者コメント

 所属からお察しいただけるかと思いますが、もともとは心臓ターゲットにした研究を行っていました。しかし、ある日のデータまとめ作業時、作製したostnノックアウトフィッシュの稚魚の写真を並べていたところ、野生型の顎はしゃくれているのに対してノックアウトは丸顔であることに気づいてしまいました。このことを望月先生に報告したところ、それまでとは一転して、私の学位論文のテーマは骨形成になりました。途中でテーマを変更したため学位の取得が遅くなり、多くの方々にご心配をおかけいたしましたが、こうして何とか研究結果を世に出すことが出来ました。支えてくださいました方々にこの場を借りて感謝申し上げます。(国立循環器病研究センター・千葉 彩乃)