日本骨代謝学会

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サイトカインG-CSFによる交感神経と好中球由来PGE2を介した発熱と造血幹細胞動員制御

G-CSF-induced sympathetic tone provokes fever and primes anti-mobilizing functions of neutrophils via PGE2
著者:Kawano Y, Fukui C, Shinohara M, Wakahashi K, Ishii S, Suzuki T, Sato M, Asada N, Kawano H, Minagawa K, Sada A, Furuyashiki T, Uematsu S, Akira S, Uede T, Narumiya S, Matsui T, Katayama Y
雑誌:Blood. 2017 Feb 2;129(5):587-597.
  • 交感神経
  • 好中球
  • PGE2

川野 裕子

論文サマリー

 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、造血幹細胞移植のソースとして、末梢血造血幹細胞採取に広く用いられているが、ほぼ必発する骨痛や発熱などの副反応のメカニズムはいまだ不明である。そのことから我々は、G-CSFによるプロスタグランディンE2(PGE2)誘導の可能性を考え解析を行った。野生型(WT)マウスでは、G-CSF投与開始初期(2日目ごろ)より発熱が認められ、その後消失する。PGE2のストレス誘導性最終合成酵素 mPGES-1 ノックアウト(KO)マウスでは、この発熱反応が完全に消失しており、さらにWTマウスに比べて動員効率が上昇していた。発熱がみられるのと同時期の骨髄ではmPGES-1 mRNAが上昇しており、同時に骨髄全体のPGE2の総量も増加していることが確認された。また、移植によって骨髄をmPGES-1 KOに入れ替えた野性型マウスでは、G-CSFによる発熱もなく動員効率が上昇することから、主に血液細胞がPGE2を産生していると考えられた。各種造血系細胞株のうち、好中球前駆細胞株でのみ、G-CSFではなくアドレナリンβ刺激によりPGE2の産生がみられたことから、骨髄から成熟好中球分画をsortingして解析したところ、やはりアドレナリンβ刺激にのみ反応してPGE2産生が起こった。またこの反応は、アドレナリンβ3受容体を特異的に介していた。G-CSFを2日間投与したマウスの成熟好中球では、自発的PGE2産生の亢進が見られたが、交感神経遮断によりこの効果は消失し、G-CSF投与後の発熱も全くみられなくなった。さらに、抗Gr-1抗体により好中球を除去したマウスでも発熱反応の消失が認められた。これらの結果より、交感神経刺激による好中球からのPGE2産生が発熱の主な原因であると考えられた。さらに、PGE2による動員抑制の原因として、PGE2の受容体サブタイプの中で最も骨代謝に影響しているEP4受容体を介して、造血ニッチとしての骨芽細胞中、特にALCAM-/Sca-1-分画特異的にオステオポンチン(OPN)が上昇しており、OPN中和抗体にてPGE2による動員の抑制が解除されることを確認した。これらの結果は、交感神経が好中球を介して骨髄内の環境調整を行っていることを示しており、骨髄内環境への交感神経系の新たな役割、炎症物質であるPGE2のソースとその機能を明示した新たな知見である。

著者コメント

 私は血液内科医で、臨床上の疑問からG-CSFによる造血幹細胞動員の研究に関わることとなりました。PGE2は様々な組織から産生され、受容体も4種類あり、ユビキタスな調整が行われていることから、そのソースや受け手を明確に捉えるのは困難です。近年、ストレス状況下の自律神経支配と自然免疫の調整機構の解明はますます注目されていますが、好中球やPGE2などの即時的な反応はいまだ解明されていない部分が多く残されていると思います。結局、子育てにも奮闘しながら8年間の期間を要し、好中球とPGE2というつかみにくい難敵に何度も負けそうになりましたが、共著者の先生方との出会いにいつも救われてきました。本当に感謝いたしております。(神戸大学大学院医学研究科血液内科学・川野 裕子)