日本骨代謝学会

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Delta-like1を介したNotchシグナルの活性化が骨の恒常性維持に重要である

Maintenance of Bone Homeostasis by DLL1-Mediated Notch Signaling.
著者:Muguruma Y, Hozumi K, Warita H, Yahata T, Uno T, Ito M, Ando K.
雑誌:J Cell Physiol. 2016 Oct 13. Doi:10.1002/jcp.25647
  • Notchシグナル
  • リモデリング
  • リガンド特異性

六車 ゆかり

論文サマリー

 本論文で、我々は、リガンド特異的なNotchシグナルの活性化が、骨量の維持に重要であることを明らかにした。骨代謝の恒常性は、リモデリングにおける骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスの上に成り立っている。これまでの報告から、Notchシグナルの活性化が骨芽細胞と破骨細胞の分化決定及び成熟と機能に関与し、骨代謝を制御していることが示されていたが、その具体的な分子機構の解析は十分に行われていなかった。本研究では、細胞内におけるNotchの活性そのものを制御するのではなく、特定のリガンドを過剰に発現させることによって、細胞間相互作用によるリガンド特異的なNotchの活性化の骨代謝における役割を解析した。 Delta-like1を過剰に発現するマウス(DLL1マウス)では、骨量が著名に増加するのに対し、Jagged1過剰発現マウスではほとんど骨量の変化が見られず(図1)、DLL1が骨量維持に重要な役割を果たしていることが示された。

六車 ゆかり

 また、DLL1マウスの骨量増加は骨芽細胞と破骨細胞の両者の機能が低下するという低回転型の骨量増加であることが分かった。次に組織標本でDLL1マウスの骨形態を詳細に解析すると、出生前後から骨髄内でNotchシグナルが活性化した幼弱な骨芽細胞が異常に増殖し、その一方で成熟骨芽細胞が顕著に低下していた。このことから、DLL1を介したNotchシグナルの骨芽細胞における活性化は、osterix陽性の未熟な骨芽細胞の増殖を促進して骨形成細胞プールを拡大させるが、成熟に関しては抑制的に作用していることが明らかになった。さらに、出生前後における破骨細胞の分化を解析すると、出生直後、つまり、骨形成優位からリモデリング優位へと移行する時期において、骨吸収窩を形成する破骨細胞が明らかに減少していた。サイトカイン添加培養では造血幹細胞から破骨細胞への分化は正常に行われ、骨芽細胞との共培養で破骨細胞分化が低下することから、リモデリングに重要な骨芽細胞と破骨細胞の相互作用に異常があるといえる。そしてその原因が、骨のマトリックス中に存在する骨芽細胞によるRANKL産生の減少であることが明らかとなり(図2)、同時にSemaphorin3Bの顕著な発現減少も示された。したがって、DLL1を介して骨芽細胞でNotchが継続的に活性化することが、Semaphorin3Bの発現とRANKL産生を抑制していると考えられる。

六車 ゆかり

 以上の実験により、DLL1を介したNotchシグナルの骨芽細胞における活性化が、骨芽細胞の分化成熟と、それにともなう破骨細胞の成熟をも制御して、骨代謝の恒常性を維持していることが明らかとなった。

著者コメント

 Notchによる造血幹細胞の動態制御を解明するために作製したマウスでしたが、思いもよらず骨形態に異常が出たことから始まったプロジェクトです。そのため、重症免疫不全ではなく、C57BL/6のマウスを新たに作製してデータを取り直す必要があったとともに、実験の途中でトランスジェニック陽性の個体が取れなくなってしまったり、KOを作製するために薬剤を投与するとマウスが死んでしまったりと、実験用のマウスの確保には大変苦労させられました。もっとも、生まれてきたマウスは安定した表現型を示し、実験結果にもブレがなかったため、その点での不安はありませんでした。実験開始から論文アクセプトまで長い年月がかかってしまいましたが、たくさんの方に支えられてまとめることが出来た愛着のある論文です。(東海大学医学部血液腫瘍内科・六車 ゆかり)