日本骨代謝学会

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TAS-115は強力なVEGFRs/MET/FMS同時阻害を介して,肺癌細胞を用いた骨病態モデルでの腫瘍増殖と骨破壊を同時に抑制する

High Potency VEGFRs/MET/FMS Triple Blockade by TAS-115 Concomitantly Suppresses Tumor Progression and Bone Destruction in Tumor-Induced Bone Disease Model with Lung Carcinoma Cells.
著者:Fujita H, Gomori A, Fujioka Y, Kataoka Y, Tanaka K, Hashimoto A, Suzuki T, Ito K, Haruma T, Yamamoto-Yokoi H, Harada N, Sakuragi M, Oda N, Matsuo K, Inada M, Yonekura K.
雑誌:PLoS One. 2016 Oct 13;11(10):e0164830.
  • VEGFR
  • MET
  • FMS

藤田 英憲

論文サマリー

 がんの骨転移に対しては,より効果的な治療法の開発が切望されている.今回,我々はVEGFR, MET, FMSを阻害するキナーゼ阻害剤TAS-115を創製し,がんの骨移植モデルでその薬効を評価した.まず,ヒト肺癌株A549にluciferaseを導入し,骨での選択的増殖を示す細胞株A549-Luc-BM1を獲得した.今回は,その細胞をマウス脛骨に移植(骨移植モデル)し,移植部位での腫瘍及び骨病変に対するTAS-115の薬効を評価した.TAS-115はin vitro培養条件下ではA549-Luc-BM1細胞への増殖抑制効果を示さなかったが,骨移植モデルでは,がんの増殖を完全に抑制した.対照薬としたcrizotinib(MET阻害剤)は無効であったが,sunitinib(VEGFR/FMS阻害剤)とcabozantinib(VEGFR/MET阻害剤)がTAS-115と同程度の抗腫瘍効果を示し,かつTAS-115投与後の腫瘍で腫瘍内血管数が減少していたことから,TAS-115のVEGFR阻害効果が抗腫瘍効果に寄与していることが示唆された.一方,各薬剤を投与後,がんを移植した脛骨を摘出してマイクロCTによる骨密度評価(volumetric bone mineral density; vBMD)とTRAP染色を実施した.病態対照群では正常骨に比して,顕著な形態変化とvBMDの減少,がん組織と骨の境界面へのTRAP陽性細胞の集簇が認められた.TAS-115投与群では,形態変化の抑制,vBMDの低下が有意に抑制され(図1),がん組織周囲のTRAP陽性細胞の集簇も抑制した(図2).

このTAS-115の効果は,sunitinib,crizotinib及びcabozantinib単剤より強く,sunitinibとcrizotinibの併用群とほぼ同等の効果であった.In vitro実験では,TAS-115がRANKLとM-CSFによる破骨細胞分化を強く阻害し,骨髄マクロファージにおけるVEGF及びHGFによる各受容体のリン酸化も阻害した.これらの結果から,VEGFR, MET, FMSの同時阻害ががんによる骨病変の進行抑制に有効である可能性が示唆された.今回の結果から,がん骨転移病巣において,TAS-115によるVEGFR, MET, FMSの同時阻害が,がんの増殖と骨病変進行の両方を強く抑制し,がんの骨転移に対する新たな治療法となることが期待された.

藤田 英憲
図1 (A)薬剤投与後のがん移植骨のマイクロCT画像(代表例), (B)薬剤投与各群のvBMD解析データ
vBMD = BMD (bone mineral density) × BV (bone volume) / TV (total volume). ##, p<0.01 in the comparison of the treated group with the normal group (Student’s t-test). **, p<0.01 in the comparison of the treated group with the control group (Dunnett’s test).

藤田 英憲
図2 薬剤投与後のがん移植骨におけるTRAP染色陽性細胞数とTRAP染色像(代表図)
B: Bone, T: Tumor (A549-Luc-BM1). **, p<0.01 in the comparison of the treated group with the control group (Dunnett’s test)

著者コメント

 私は約20年間、抗がん剤の創薬研究に携わっておりますが,骨環境や骨転移に関連する研究はここ2,3年と浅く,この様な大変貴重な機会を与えて頂いた皆様にまずは御礼を申し上げます.
 骨代謝シグナルに加えて,がんと骨の相互作用も非常に複雑で奥深く,日々の研究で大変充実した日々を過ごす一方,がんの骨転移に対して,少しでも早く,有効な薬剤を創製することで,人びとの健康を高め,満ち足りた笑顔あふれる社会づくりに貢献したいと感じています.今回の結果は,他のモデルでも認められており,骨転移の溶骨型・造骨型を問わずにその効果を期待しています.今後は作用機序のより詳細な解明を進めていくつもりです.(大鵬薬品工業株式会社・藤田 英憲)