日本骨代謝学会

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細胞外無機リン酸惹起シグナルは骨芽細胞においてFGF受容体を介してDentin Matrix Protein 1の発現を誘導する

Extracellular Phosphate Induces the Expression of Dentin Matrix Protein 1 through the FGF Receptor in Osteoblasts.
著者:Nishino J, Yamazaki M, Kawai M, Tachikawa K, Yamamoto K, Miyagawa K, Kogo M, Ozono K, Michigami T.
雑誌:J Cell Biochem. 2016 Sep 17. doi: 10.1002/jcb.25742.
  • 細胞外無機リン酸惹起シグナル
  • Dentin Matrix Protein 1
  • FGF受容体

山崎 美和

論文サマリー

 リンは生命維持や骨の石灰化に必須のミネラルであり、生体にはリン恒常性維持のための調節機構が存在する。今世紀初頭のfibroblast growth factor 23 (FGF23)の同定以来、リン代謝制御機構の理解が進み、骨芽細胞は骨細胞への分化の過程で様々なリン代謝制御因子の発現を獲得することが明らかとなった。しかしながら、生体がリンの過不足を感知するしくみなど、不明な点も多く残されている。

 Dentin matrix protein 1 (Dmp1)は常染色体劣性低リン血症性くる病の責任分子であり、成熟骨芽細胞や骨細胞に高く発現しているSIBLINGsファミリーの細胞外基質蛋白質である。我々はこれまで、マウス長管骨由来初代骨細胞において細胞外無機リン酸濃度の上昇がDmp1の発現を増強することを報告している (Miyagawa, Yamazaki, et al. PLoS One, 2014)。今回、細胞外無機リン酸刺激が骨芽細胞においてもDmp1の発現を強く誘導したことから、その分子メカニズムについて解析を進めた。マウス骨芽細胞系細胞株MC3T3-E1において、細胞外無機リン酸濃度の上昇は、ERK1/2のリン酸化およびDmp1の発現を誘導した。Fgf23の発現は誘導されなかったが、古典的FGFリガンドであるFgf2およびFGF受容体 (FGFR) の一つであるFgf receptor 1 (Fgfr1) の発現も細胞外無機リン酸刺激により誘導された。リン酸刺激によるDmp1やFgfr1の発現誘導はMEK阻害剤であるU0126を共に添加することにより解除され、リン酸によるこれらの分子の発現誘導にMEK/ERK経路が関与することが示唆された。細胞外無機リン酸濃度の上昇はまた、FGFR の活性化をMEK/ERK経路へと仲介するFGFR substrate 2α (FRS2α) のリン酸化を誘導し、この効果はⅢ型ナトリウム-リン酸共輸送担体の一つであるPit-1の発現をノックダウンすることにより減弱した。さらに、FGFRの阻害剤であるSU5402により、無機リン酸刺激によるDmp1の発現誘導が解除された。初代骨芽細胞においては、無機リン酸濃度の上昇はDmp1の発現誘導に先んじて、FGFR活性化の標的であるearly growth response 1 (Egr1) の発現を一時的に誘導した。これらの結果は、骨芽細胞において、FGFRが細胞外無機リン酸刺激による直接的なDmp1の発現誘導を仲介していることを示し、我々がこれまで提唱してきた細胞外無機リン酸により惹起されるシグナルとFGF/FGFRシグナルとの間の密接な関係をさらに強めた。

山崎 美和
図:細胞外無機リン酸により惹起されるシグナル伝達
細胞外無機リン酸により惹起されるシグナル伝達にはPit-1とFGF受容体が関与し、FRS2αやRaf/MEK/ERK経路を介して遺伝子発現を制御することが示唆された。

著者コメント

 我々はこれまで、複数の細胞種において、細胞外無機リン酸濃度の変化がPit-1やFGFRを介して細胞内にシグナルを惹起し、遺伝子発現を制御することを示してきました (Kimata, et al. Bone, 2010; Yamazaki, et al. J Cell Biochem, 2010)。リンの恒常性において、骨芽細胞や骨細胞は中心的な役割を担っているところから、これらの細胞は体内のリンの過不足を感知し、適応を示す可能性があります。今回の検討から、細胞外無機リン酸の上昇はDmp1の発現誘導を介して骨芽細胞から骨細胞への分化を促進させるのではないかと考えています。また、今回の結果は、我々がこれまで提唱してきた細胞外無機リン酸により惹起されるシグナルとFGF/FGFRシグナルとの間の密接な関係に関する仮説をさらに支持します。今後、Pit-1とFGFRとの間を仲介する分子の同定など、さらに解析を進めたいと考えています。最後に、ご指導いただきました道上敏美先生、プロジェクトの前半を担当した大阪大学大学院歯学研究科大学院生の西野仁先生をはじめ、お世話になった先生方、研究室の皆様に深く感謝いたします。(大阪府立母子保健総合医療センター研究所 環境影響部門・山崎 美和)