日本骨代謝学会

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IL-1betaにより刺激された骨芽細胞層下への破骨細胞前駆細胞の遊走におけるCX3CL1の関与

Involvement of CX3CL1 in the Migration of Osteoclast Precursors Across Osteoblast Layer Stimulated by Interleukin-1ß.
著者:Matsuura T, Ichinose S, Akiyama M, Kasahara Y, Tachikawa N, Nakahama KI.
雑誌:J Cell Physiol. 2016 Aug 31. doi: 10.1002/jcp.25577.
  • 破骨細胞前駆細胞
  • 骨芽細胞
  • 細胞遊走

中浜 健一
左から、筆者(松浦)と責任著者(中浜)

論文サマリー

骨リモデリングの開始は破骨細胞による骨吸収が引き金となっております。また、破骨細胞分化は骨の修復が必要とされる古い骨に起こることが知られております。しかしながら、リウマチなどの炎症性骨疾患では生理的に調節されていない骨吸収が起こります。多角の成熟破骨細胞は単球/マクロファージ系の細胞が細胞融合により分化しますが、我々はその分化前に骨芽細胞の下に潜り込む必要があると考えました。本論文で我々はその潜り込みに2つの経路があることを共焦点レーザー顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いて明らかにしました。1つは細胞と細胞の間を通るParacellular route、もう1つは細胞の中を通っていくTranscellular routeです(図)。

中浜 健一
図:GFP発現骨芽細胞を赤色蛍光でラベルした骨髄由来単核球が遊走する様子

以前より、骨芽細胞の持つ破骨細胞支持能を骨髄由来単核球(BM-MNCs)との共培養で調べる実験において、骨芽細胞の細胞密度が破骨細胞分化能に重要であると言われてきました。実際に骨芽細胞をほぼコンフルエントな状態で骨髄由来単核球と共培養しても破骨細胞は分化してこなかったと言う経験があり、調べてみると破骨細胞分化は骨芽細胞の密度に反比例することがわかりました。これは高密度な骨芽細胞培養系では骨髄由来単核球が骨芽細胞下に潜ることができないからではないかと仮説を立てました。またこの破骨細胞の分化を誘導するために骨芽細胞をプロスタグランディンE2(PGE2)またはインターロイキン1β(IL-1ß)で刺激しますが、それらの刺激剤を比べてみると、PGE2刺激では高密度な骨芽細胞に破骨細胞支持能は認められなかったのですが、IL-1ß刺激では高密度な骨芽細胞に於いても破骨細胞支持能を示しました。この実験から、IL-1ß刺激によって骨芽細胞に何らかの接着分子が発現しているからだろうと考え、マイクロアレイ解析を行った結果、CX3CL1が候補分子として浮かんできました。そこで、CX3CL1に対する中和抗体を用いて、BM-MNCsの骨芽細胞下への潜り込みと破骨細胞分化を調べた結果、共に中和抗体で抑制されました。これらの実験から、我々は炎症性骨破壊において、破骨細胞前駆細胞が骨芽細胞層を通り抜けて骨基質上に達するためにCX3CL1が重要な役割をしていると考えました。

著者コメント

 私が東京医科歯科大学に赴任して、暫く何を研究対象にするかを探しながら大学院生の実験を指導しておりました。当時は血管チームと炎症を研究しているチーム、骨代謝を研究しているチームがありました。私は細胞融合によって大きくなった破骨細胞を顕微鏡で見た時に、その不思議な細胞に興味を抱き、まずはin vitroで破骨細胞を作る実験を始めました。骨芽細胞と骨髄細胞の共培養をPGE2で刺激する実験系を用いて破骨細胞分化を調べておりました。その頃に「共培養の系ではなぜ骨芽細胞の数はこんなに少ないのだろう?」「骨の表面は骨芽細胞で覆われているのではないだろうか?」という疑問がありました。今回の論文で、その疑問の一端が明らかになったと思っております。また、骨芽細胞の細胞内を骨髄由来細胞が潜っていく様子を観察できた時は非常に驚きました。論文のsupplementary fileに動画がございますので、是非ご覧いただけたらと思います。(東京医科歯科大学 大学院 分子細胞機能学分野・中浜 健一)