日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 三浦 治郎

齲蝕罹患象牙質における糖化最終産物(AGEs)沈着と影響

Influence of Nonenzymatic Glycation in Dentinal Collagen on Dental Caries.
著者:Matsuda Y, Miura J, Shimizu M, Aoki T, Kubo M, Fukushima S, Hashimoto M, Takeshige F, Araki T.
雑誌:J Dent Res. 2016 Dec;95(13):1528-1534. Epub 2016 Aug 14.
  • 象牙質
  • 老化
  • 齲蝕

三浦 治郎
論文中で用いた写真がJDR(12月号)の表紙に選ばれました。
(写真 中央:松田(筆頭著者)、右:三浦(責任著者)、左:清水 於:口腔総合診療部実験室にて)

論文サマリー

 象牙質は、骨のように吸収添加を繰り返すこともなく、発生してから象牙質添加による歯髄腔の狭小化以外の大きな形態変化が起こらない組織である。また、代謝が緩慢な故に様々な物質の沈着や劣化などが起こりやすい環境にある。象牙質の加齢に関する報告は、石灰化の変化に関するものが多く、コラーゲン線維の修飾に関連したものはわずかである。本論文は、近年我々が行った象牙質内の加齢関連物質の評価法(Miura et al, 2014, Fukushima et al, 2015)を応用・発展させ、齲蝕象牙質におけるコラーゲン基質内の加齢関連物質AGEを形態学的手法や免疫組織化学的手法、分析化学的手法を用いて分析、検討したものである。

 実験は、齲蝕に罹患した抜去歯を1mm厚に切断した後、光学顕微鏡用の試料は脱灰後にパラフィン包埋を行いミクロトームで薄切した。観察はグラム染色の他、コラーゲンとAGEに対する免疫組織化学染色を行った。免疫電子顕微鏡用試料は、超薄切後にAGE抗体処理および金コロイドを用いた2次抗体を反応させた。蛍光寿命計測に関しては脱灰した齲蝕象牙質に対してTime correlated single photon counting(TCSPC)法を用いて蛍光寿命の測定を行った。ウエスタンブロットで脱灰後、齲蝕罹患部、健全部に分けて、それぞれから直径1mmの円柱型試料を採取した。塩酸分解後、アセトン沈殿法にてタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法を用いてコラーゲンおよびAGEの変化を検出し、酵素や酸への耐性の評価を行った。細菌の管間象牙質への侵入や基質の破壊が認められコラーゲン線維に特徴的な縞模様が不明瞭になっていることが確認された。免疫電顕法により、齲蝕罹患部の管間象牙質にまで細菌が侵入した部位においては、健全部位よりも多くのAGEの沈着を認めた。免疫電顕において齲蝕罹患部位におけるAGEの基質内への沈着および、ウエスタンブロット法においては、齲蝕罹患象牙質におけるAGEの蓄積および耐酸性、耐酵素性の向上を認めた。蛍光寿命測定では齲蝕罹患部において顕著な蛍光寿命の短縮および蛍光強度の減少を認めた。

 結果から、菌の侵入により基質分解とAGEの沈着が起こり、その沈着量は齲蝕の部位によって変化していることが分かった。これは、齲蝕が進行している部位においては、基質を取り巻く外部環境が大きく変化するため、基質が破壊され、管間象牙質の内部にまで食物に由来すると思われる還元糖によるAGEsの産生が起こっていると考えられる。これらの現象は、菌の侵入のない深部では少なくなっており、齲蝕部位においては、蛍光寿命の短縮も起こっていることからコラーゲンに比べて短寿命成分の蛍光性AGEsの比率が増えていると考えられます。今後、齲蝕とAGEの関連についてさらに研究を進めていく予定です。

三浦 治郎
図:齲蝕と象牙質における糖化物質の蓄積との関わり

著者コメント

 「象牙質の専門家はいませんか?」5年前に基礎工学研究科の荒木勉教授から突然が来てナノ秒蛍光法というコラーゲンの新しい評価法に出会い、医工連携研究がスタートしました。我々の研究室は、透過型電子顕微鏡を用いた形態評価を軸にコラーゲン基質内の加齢変化を捉えようと試行錯誤していた最中でした。荒木研は光計測の教室で、それまで聞いたことのない光学現象を用いた手法を教えていただき目から鱗の体験でした。お互いの使える技術を持ち寄り、足りない機材はなんとか調達(時には自腹でネットオークション!)して目的とする分析を行える環境を構築できるように頑張ったことが、研究者としても人としても大きく成長させていただいたのかと思っております。いつ結果が出るのか分からないような地味な研究を信じてついてきてくれた研究グループのメンバー、温かく支援して下さった多くの先生方に感謝しております。(大阪大学歯学部附属病院 口腔総合診療部・三浦 治郎)