日本骨代謝学会

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Netrin1は骨代謝ならびに自己免疫性骨破壊を制御する

Bone protective functions of Netrin 1.
著者:Maruyama K, Kawasaki T, Hamaguchi M, Hashimoto M, Furu M, Ito H, Fujii T, Takemura N, Karuppuchamy T, Kondo T, Kawasaki T, Fukasaka M, Misawa T, Saitoh T, Suzuki Y, Martino MM, Kumagai Y, Akira S.
雑誌:J Biol Chem. 2016 Nov 11;291(46):23854-23868.
  • Netrin1
  • 破骨細胞
  • 細胞融合

丸山 健太

論文サマリー

 超高齢社会をむかえた本邦において、骨粗鬆症や関節リウマチによって惹起される骨破壊を阻止できる分子の探索は依然として重要な研究テーマである。今回、関節を構成する細胞の網羅的遺伝子発現情報解析の過程で、神経軸索ガイダンス因子Netrin1がIL17によって骨芽細胞と滑膜細胞に強く誘導されることを発見した。興味深いことに、関節リウマチ患者の関節液におけるNetrin1濃度は著名に上昇しており、その濃度とIL-17濃度との間には正の相関が認められた。また高濃度のNetrin1を関節液に含む患者では骨破壊マーカーの濃度が有意に低いという結果を得た。そこで本研究ではNetrin1が骨破壊を抑制しているとする作業仮説を立て、この仮説を実験的に検証することを試みた。意外なことに、Netrin1は中枢神経よりも関節においてその発現が高いことが判明した。また、Netrin1の発現は血球系細胞では認められない一方、骨芽細胞や滑膜細胞で非常に強いことが明らかとなった。Netrin1ノックアウトマウスの骨を解析したところ、骨量の減少と破骨細胞の巨大化が観察された。そこで、in vitroにおいてNetrin1が破骨細胞に与える影響を調べる目的でRANKL誘導性の破骨細胞分化培養系にNetrin1を加えたところ、破骨細胞形成が強力に阻止された。個々の破骨細胞の骨吸収活性と分化マーカーの発現状態は正常であったことから、Netrin1の破骨細胞に対する作用は融合阻害であると考えられた。Netrin1で処理した破骨細胞の動きや細胞骨格の変化を顕微鏡で観察したところ、Netrin1は破骨細胞の運動性とアクチン重合を著明に抑制することが明らかとなった。また、アクチン重合を正に制御するRac1の活性化と、Rac1を活性化するVav3のリン酸化はNetrin1によって抑制されていた。その一方で、Vav3の脱リン酸化を担うSHP-1のリン酸化はNetrin1処理によって亢進していた。また、SHP-1およびNetrin1の受容体であるUnc5bの発現をsh-RNAによって抑制すると、Netrin1による破骨細胞融合阻害効果は消失した。以上より、Netrin1はUnc5b受容体を介してSHP-1を活性化させ、その結果、Vav3-Rac1シグナルが抑制されることで破骨細胞の融合が障害されることが明らかとなった。さいごに、Netrin1の薬理効果を調べる目的でコラーゲン誘導性関節炎モデルマウスおよび高齢マウスにNetrin1を投与したところ、骨破壊が著名に抑制された。興味深いことに、Netrin1の投与はin vivoにおける破骨細胞融合を抑制するのみならず、骨形成を促進した。Netrin1で処理した破骨細胞からは骨形成を促すサイトカインであるBMP2が誘導され、in vitroにおいてNetrin1で処理した破骨細胞の培養上清で骨芽細胞を培養すると、骨形成が亢進した。以上より、Netrin1は破骨細胞の融合を抑制すると同時に骨形成を促進する薬理効果を持った液性因子であることが示された(図1,2)。

丸山 健太
図1:Netrin1による骨破壊・骨形成制御メカニズム

丸山 健太
図2:Netrin1による骨保護効果

著者コメント

 先行論文や現行のドクマを真っ向から否定するデータを数多く含んだ報告であるが故に、投稿後採択されるまでに3年の期間を要した。800万円程度の資金を費やして多くの企業に対し実用化にむけた提言を行ったが、JSTによる突然の特許支援期限の大幅な短縮により、出願特許譲渡にむけた計画は頓挫した。弱腰の日本企業ならびに二重規範に彩られた政府の政策には呆れるばかりである。我々在野の医師にできることは、日常診療の中で頻繁に遭遇する現象を分子のことばで描写し、時にはひそかに自分自身をも使って実験をおこないながら人生を楽しんでゆくことだけではないのだと信じたい。(免疫学フロンティア研究センター・丸山 健太)