日本骨代謝学会

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脂質メディエーターS1PはS1PR2シグナル経路を介したSmad1/5/8リン酸化亢進及びRunx2発現増加作用により骨芽細胞分化を促進する

Sphingosine-1-phosphate/S1PR2-mediated signaling triggers Smad1/5/8 phosphorylation and thereby induces Runx2 expression in osteoblasts.
著者:Higashi K, Matsuzaki E, Hashimoto Y, Takahashi-Yanaga F, Takano A, Anan H, Hirata M, Nishimura F.
雑誌:Bone. 2016;93:1-11.
  • 骨芽細胞
  • S1P/S1PR2シグナル
  • 骨分化

松﨑 英津子

論文サマリー

 脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸 (S1P) は、5つのGタンパク質共役型受容体 (S1PR1- S1PR5) を介して、細胞分化・増殖・遊走など多彩な作用を及ぼすことが知られている。近年私どもは、骨芽細胞におけるS1P/S1PR1シグナルの活性化によるosteoprotegerin(破骨細胞抑制因子)発現とalkaline phosphatase (ALP) 活性の増加を報告したが、その過程でS1P 添加による ALP 発現増加には、S1PR1 の働きに加えてS1PR2 も関与することを見出した。また、骨芽細胞及び未分化間葉系幹細胞にはS1PR1及びS1PR2が発現しており、S1P添加によりこれらの受容体発現が増加することから、本研究ではS1PR2を介した骨芽細胞分化制御機構について解析した。とりわけ、ALP 発現を制御するSmad1/5/8及びRunx2、そしてSmad1/5/8を制御するRhoA/ROCKシグナルに着目した。

 その結果、骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1において、(1) S1P/S1PR2シグナルはRhoAを活性化する、(2) S1P/S1PR2/RhoA/ROCKシグナルはSmad1/5/8のリン酸化を亢進する、(3) S1P/S1PR2/RhoA/ROCKシグナルはRunx2発現を増加する、等が明らかとなった。また、(4) これらの作用はGi非依存性であること、すなわちGi依存性のS1PR1を介した作用とは異なることも明らかにした。一方、マウス初代培養骨芽細胞でも上記(2)及び(3)を確認した。さらに、マウス脛骨を用いて、in vivoにおけるS1Pによる骨芽細胞分化促進作用とS1PR2/RhoA/ROCKシグナルの関与について検討したところ、(5) S1PR2アゴニストによる海綿骨の骨量、骨梁幅、骨梁数の増加に、S1PR2/ROCKシグナルの一部が関与することを見出した。

 本研究で明らかとなったS1P/S1PR2/RhoA/ROCKシグナルによる骨芽細胞分化促進作用は、骨再生における新しい治療法の開発に繋がる可能性がある。

松﨑 英津子
in vivo における S1PR2 シグナルの影響

松﨑 英津子
骨芽細胞分化における S1PR2 シグナル (Bone 93:1-11, 2016 改変)

著者コメント

 S1Pによる骨芽細胞分化促進メカニズムの一端として、大学院生の東 克匡君を中心に、S1PによるSmad1/5/8リン酸化亢進、Runx2発現増加を端緒にS1PR2/RhoA/ROCKシグナルを明らかにしました。炎症等様々な状況により細胞内S1PR発現量は変動するため、S1PR1/R2シグナルは相補的に作用して骨レベルを保つ可能性も考えられます。S1P化合物は日本発の多発性硬化症治療薬として臨床応用されており、骨代謝も含めたS1Pの多彩な作用に魅せられています。
 本研究の遂行にあたり、ご指導いただきました平田 雅人教授、西村 英紀教授をはじめ共著者の先生方及び九州大学、福岡歯科大学の研究室の方々に厚く御礼申し上げます(福岡歯科大学歯科保存学分野・松﨑 英津子)