日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 塚崎 雅之

破骨細胞特異的にAtmを欠失した遺伝子改変マウスは破骨細胞の延命により骨量の減少を来たす

Conditional abrogation of Atm in osteoclasts extends osteoclast lifespan and results in reduced bone mass
著者:Hirozane T, Tohmonda T, Yoda M, Shimoda M, Kanai Y, Matsumoto M, Morioka H, Nakamura M, Horiuchi K
雑誌:Sci Rep. 2016 Sep 28;6:34426. doi: 10.1038/srep34426.
  • 破骨細胞
  • Ataxia telangiectasia mutated (ATM)
  • アポトーシス

塚崎 雅之

論文サマリー

 Ataxia telangiectasia mutated (ATM) は毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子であり,DNA修復や細胞の生存に重要な機能を担うことが知られている.全身性にATMを欠失したマウスは,性腺の低形成を来たし,二次的に破骨細胞による骨吸収活性が亢進する.その結果,閉経後骨粗鬆症に類似した表現型を呈することが報告されている.しかしながら,破骨細胞におけるATMの内因的な機能を検討した報告は従来ない.われわれは破骨細胞分化に伴いATMの活性が上昇することを過去に見出しており,このことからATMが破骨細胞分化,もしくは骨吸収の機能維持に関与している可能性を考え研究に着手した.

 本研究ではまず,破骨細胞特異的にATMを欠失させた遺伝子改変マウス(AtmCtskマウス)を作成し,その表現型解析を行った.AtmCtskマウスは,肉眼的には明らかな異常を呈さなかったが,マイクロCTおよび組織学的解析から,骨量が野生型マウスに比較して低下していることが見出された.しかしながら,二次海面骨の領域では,骨代謝のカップリングはある程度保たれているようであり,骨形成・骨吸収パラメーターともにほぼ正常であった.そこで,より詳細に組織学的解析を行ったところ,一次海面骨と二次海面骨の境界領域において,破骨細胞数がAtmCtskマウスにおいて有意に上昇していることが明らかとなった.

 この破骨細胞数の上昇が,破骨細胞の分化亢進の結果かどうかを判断するために,骨髄細胞を採取し,破骨細胞分化誘導実験を行ったが,ATM発現の有無による破骨細胞形成の違いは観察されなかった.次に,ATMが破骨細胞の生存に関与する可能性を考え,M-CSFおよびRANKLを枯渇させた状態で,成熟破骨細胞を培養し,その生存率の評価を行った.すると興味深いことに,ATMを欠損した破骨細胞は対照群に比較して,アポトーシスに抵抗性であり,生存が著明に延長していることが明らかとなった.また,本所見を裏付けるように,in vivoにおいても,アポトーシスの指標となるTUNEL染色陽性の破骨細胞の頻度が,対照マウスと比較し,AtmCtskマウスでは有意に低下していることが観察された.

破骨細胞の生存はNF-κBの活性に大きく依存していることから,AtmCtskマウスおよび対照マウス由来の破骨細胞におけるNF-κB活性を検討した.ATMを欠損した破骨細胞では対照群に比較して,NF-κB複合体を構成するp65蛋白質の核内移行が亢進しており,NF-κBの下流分子の転写活性が上昇していることが明らかとなった.

以上の結果から,ATMは破骨細胞において,NF-κBの負の制御因子であり,アポトーシスの誘導因子の一つとして機能することが示唆された.またAtmCtskマウスで観察された骨量の低下は,破骨細胞の分化亢進ではなく,破骨細胞の延命による骨吸収の累積的な増加に起因したものと推測された.

塚崎 雅之
ATMは破骨細胞分化に伴い活性化し,NFkBの転写活性を抑制することで破骨細胞の寿命・骨吸収を制御する.しかしながら,ATMが欠損した状態(AtmCtsk)では,この抑制機構が破綻し,破骨細胞の延命・骨吸収促進が生じる.

著者コメント

 慶應義塾大学整形外科前教授の戸山芳昭先生,現教授の中村雅也先生,松本守雄先生の多大なるサポートの下,博士課程のテーマの一つとして本研究に取り組みました.大学院入学当初は右も左も分からない状況だったのですが,マウスの管理や実験方法などを共著者の東門田誠一さん(現尚絅学院大学准教授),依田昌樹さん(現慶應大学医学部細胞組織学研究室助教),そして多くの先生方,テクニシャンの方々に一から教えて頂き,ここまで辿りつくことが出来ました.途中,様々なトラブルや障害もあり,このテーマは埋もれそうになった時期もあったのですが,そこを何とか形にする事が出来たのは,懇切丁寧にご指導頂きました堀内圭輔先生はじめ研究室・関係部署の皆様の支えがあってこそ,と思っております.改めて感謝御礼申し上げます.今後は本研究で培った方法・精神を,臨床医としての専門領域である骨軟部腫瘍の臨床・研究に応用して行きたいと考えています.(慶應義塾大学医学部 整形外科学教室・弘實 透)