日本骨代謝学会

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MET/VEGFR/FMS阻害は前立腺癌が誘導する破骨細胞分化と骨破壊を抑制する

The MET/Vascular Endothelial Growth Factor Receptor (VEGFR)-targeted TyrosineKinase Inhibitor Also Attenuates FMS-dependent Osteoclast Differentiation and Bone Destruction Induced by Prostate Cancer.
著者:Watanabe K, Hirata M, Tominari T, Matsumoto C, Fujita H, Yonekura K, Murphy G, Nagase H, Miyaura C, Inada M
雑誌:The Journal of Biological Chemistry 291: 20891-20899, 2016
  • 前立腺癌
  • 破骨細胞
  • 受容体型チロシンキナーゼ

渡邊 健太
左:筆者(渡辺健太) 右:稲田全規先生

論文サマリー

 前立腺癌は高率に骨転移し、その転移巣において骨吸収亢進や異常な骨形成を惹起する。前立腺癌の骨転移は骨痛や病的骨折を引き起こす。本論文では、ヒト前立腺癌細胞株 PC3を用いて、前立腺癌細胞の骨転移と骨破壊におけるMET/VEGFR阻害剤の効果を検討した。PC3細胞を移入した頸骨では著しい海綿骨および皮質骨の破壊とPC3細胞の腫瘍形成が認められた。MET/VEGFR阻害剤であるTAS-115を経口投与すると、PC3細胞による破骨細胞形成が抑制され、それに伴い、PC3細胞誘導の骨破壊がほぼ完全に抑制されていた (図1.)。

渡邊 健太
図1. PC3細胞誘導骨破壊に対するMET/VEGFR阻害剤(TAS-115)の効果
上段・中段: マウス脛骨のμCT像、下段: マウス脛骨切片のTRAP及びHE染色像
PC: 前立腺癌細胞

 これら骨破壊の抑制により転移巣も縮小していた。骨吸収の抑制メカニズムの詳細な解析として、マウス頭頂骨器官培養系においてPC3細胞とマウス頭頂骨を共培養した。その結果、破骨細胞形成及び骨吸収活性の亢進が認められたが、阻害剤の添加によりそれぞれ抑制された。次に、骨芽細胞、マクロファージ、破骨細胞、PC3細胞における遺伝子発現プロファイリングを行ったところ、FMSはマクロファージと破骨細胞分化系列においてのみ発現していた。そこで、MET/VEGFR阻害剤の破骨細胞分化系に対する影響を検討した結果、マクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF) 依存的なマクロファージの分化を抑制し、破骨細胞形成を抑制することが明らかとなった。さらに、M-CSF受容体であるFMSと破骨細胞分化に関与するERKおよびAktのリン酸化を調べたところ、M-CSF刺激によるFMSとERK、Aktのリン酸化は、MET/VEGFR阻害剤の添加により抑制された。以上の結果より、MET/VEGFR/FMS阻害が前立腺癌に誘導される破骨細胞分化と骨破壊を抑制することが示唆された (図2.)。

渡邊 健太
図2. 前立腺癌の骨転移巣における骨破壊促進メカニズムとMET/VEGFR阻害剤(TAS-115)の作用
OC: 破骨細胞、OB: 骨芽細胞、PC: 前立腺癌、HGF/MET:肝細胞増殖因子/受容体、
VEGF/VEGFR: 血管内皮細胞増殖因子/受容体、M−CSF/FMS:マクロファージコロニー刺激因子/受容体

著者コメント

 これまでに当研究室では、癌細胞と宿主細胞の細胞間相互作用が癌による骨破壊を誘導することを報告してきました。本論文では、新たに受容体型チロシンキナーゼに着目し、その阻害剤を用いて骨転移した前立腺癌細胞が誘導する骨破壊への影響を検討しました。骨転移のモデル構築には苦労もありましたが、新たな発見を嬉しく思っています。癌の骨転移における骨代謝異常のメカニズムは依然として不明な点が多く残っていることから、今後も積極的に研究を進めます。最後にこの場をお借りして、ご指導頂きました大学院博士課程・指導教員の稲田全規先生をはじめ、研究の実施に関わりました研究室と全ての皆さまに心より感謝申し上げます。(東京農工大学大学院工学府 生命工学専攻・渡邊 健太)