日本骨代謝学会

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後縦靭帯骨化症の疾患感受性遺伝子RSPO2を同定

Identification and Functional Characterization of RSPO2 as a Susceptibility Gene for Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament of the Spine.
著者:Nakajima M, Kou I, Ohashi H; Genetic Study Group of the Investigation Committee on the Ossification of Spinal Ligaments, Ikegawa S.
雑誌:Am J Hum Genet. 2016 Jul 7;99(1):202-7
  • 後縦靭帯骨化症(OPLL)
  • RSPO2
  • Wnt/β-cateninシグナル

中島 正宏

論文サマリー

 後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine: OPLL)は異所性に骨化した後縦靭帯が脊髄や神経根を圧迫し、神経症状を呈する疾患である。OPLLは日本人の約3%にみられる頻度の高い疾患であるが、現在のところ根本的な治療法がない。OPLLの発症には遺伝的要因が関与すると考えられ、日本を中心に疾患感受性遺伝子の探索が行われてきた。我々は先に、ゲノムワイド相関解析(genome-wide association study: GWAS)を行い、OPLLの発症に関連する6つのゲノム領域を発見した注1)。これまで様々な疾患でGWASが行われ、疾患に関連する多くのゲノム領域が発見されているが、その後に続くべき疾患感受性遺伝子の同定に成功した例は少ない。今回我々は、ビッグデータ解析を出発点とした一連の機能解析により、OPLLの疾患感受性遺伝子、R-spondin 2 (RSPO2)を同定した。

 OPLLに関連する6つのゲノム領域の内のひとつの8q23.1領域の連鎖不平衡の解析により、疾患感受性SNPの候補を絞り込み、候補SNP含む配列がプロモーターあるいはエンハンサーとして作用する遺伝子をtopologically associated domainから推定した。その結果、RSPO2、EIF3E、EMC2の3つが疾患感受性遺伝子の候補に挙がった。特に、RSPO2は靭帯、軟骨、骨に特異的に発現しており、OPLLの骨化機序として考えられている内軟骨性骨化の軟骨初期分化過程において発現が低下していた。一方、他の2遺伝子に発現変化はなかった。ATDC5細胞の軟骨分化モデルにおいて、RSPO2はWnt/β-cateninシグナルを増強することにより、軟骨初期分化を抑制した。RSPO2遺伝子のコアプロモーターに存在する疾患感受性SNP (rs374810)は、C/EBPβとの結合親和性を低下させ、RSPO2のプロモーター活性を抑制した。OPLLに罹りやすいタイプのSNPを持つ人由来の培養繊維芽細胞ではRSPO2の発現量が低下していた(図1)。

中島 正宏

 以上の結果より、RSPO2は靭帯細胞の分化におけるgate keeperで、RSPO2の発現量の低下は、靭帯になるべき間葉系幹細胞を軟骨に分化させ、内軟骨性骨化を引き起こし、OPLLを発症すると考えている(図2)。

中島 正宏

注1) ゲノムワイド相関解析で後縦靭帯骨化症の感受性座位を発見
http://www.jsbmr.jp/1st_author/43_mnakajima.html

著者コメント

 私は2011年からOPLLの遺伝要因の解明を目指して罹患同胞対解析およびGWASに取り組んできました (Karasugi et al. J Bone Miner Metab (2013), Nakajima et al. Nat Genet (2014))。本研究では、ビッグデータの有効利用と骨軟骨代謝関連の機能解析による検証により、OPLLの疾患感受性遺伝子を世界で初めて同定しました。今後、同様のアプローチにより、GWASで見つかったOPLLの発症と関連する他の5つのゲノム領域からも疾患感受性遺伝子を見つけたいと考えています。最後に、本研究にご協力頂いた多くの先生方、および患者家族会の皆様に深く感謝申し上げます。(理化学研究所統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チーム・中島 正宏)