日本骨代謝学会

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活発に骨吸収する破骨細胞はWilms' Tumor 1のアンチセンスRNAを高発現する:破骨細胞分化にともなうWT1蛋白質の発現抑制

Extremely High Expression of Antisense RNA for Wilms' Tumor 1 in Active Osteoclasts: Suppression of Wilms' Tumor 1 Protein Expression during Osteoclastogenesis.
著者:Yin-Ji Li, Akiko Kukita, Yukari Kyumoto-Nakamura, and Toshio Kukita
雑誌:Am J Pathol. 2016 Sep;186(9):2317-25
  • 破骨細胞
  • アンチセンスRNA
  • Wilms腫瘍

久木田 敏夫

論文サマリー

 植物やバクテリアでは蛋白質をコードするメッセンジャーRNAに相補的なRNAである「アンチセンスRNA」が発現しており多彩な機能を有することが知られていた。このような制御は哺乳類では起こらないことと考えられていたが、ヒトを含めた哺乳類でもアンチセンスRNAが発現されており、エピジェネティックな制御などの生命現象に於いて重要な役割を担っていることが分かってきた。アンチセンスRNAは比較的長鎖の制御性RNAとして、X染色体の不活化や免疫グロブリンの高可変領域の形成などの重要な現象に関与している。

 破骨細胞はRANKLを主体とする破骨細胞分化因子刺激による一連のシグナルがNFATc1等の転写因子の発現を誘導することにより分化する。RANKL/RANK下流のシグナル伝達機構に関してはかなりの部分が解明されてきた。最近、短鎖の制御性RNAであるマイクロRNAが破骨細胞分化の制御に関与することが示され、現在では10種類程のマイクロRNAが破骨細胞分化の制御に関わっていることが報告されており、破骨細胞の分化や機能発現においてもRNAによる制御の重要性が指摘されている。しかし、破骨細胞分化へのアンチセンスRNAの関与については殆ど分っていなかった。

 小児腎癌の原因遺伝子であり、腎発生に必須のZnフィンガー型転写因子WT1は造血系でも機能を有しておりマクロファージの分化を誘導する。WT1は未分化な造血系細胞にも発現されており、現在、ヒト白血病の分子マーカーとしても注目されている。我々はWT1蛋白質が破骨細胞の前駆細胞でも発現されることと、破骨細胞への分化に伴いWT1蛋白質の発現が激減することを見出した。ラット新生仔の顎骨におけるWT1mRNAの発現をRNA in situ hybridization (RNA-ISH)法で検討した。その結果、ラット新生仔の下顎骨に於いて骨梁間を移動していると考えられる破骨細胞は低レベルのWT1mRNAと高レベルのWT1アンチセンスRNAを発現しており、骨梁骨の先端に付着して活発に吸収している破骨細胞ではWT1mRNAの発現は認められず、高レベルのWT1アンチセンスRNAのみを発現していた。ノーザンブロット法等を用いてラット新生仔顎骨にWT1アンチセンスRNAが実際に発現することを確認した。破骨細胞前駆細胞株であるRAW-D細胞にWT1アンチセンスRNAを強制的に発現させると、破骨細胞分化が顕著に促進された。更に、WT1アンチセンスRNAを強制的に発現させると、破骨細胞分化後期において、カテプシンKの遺伝子発現が有意に亢進されることを見出した。以上の結果から、破骨細胞はWT1アンチセンスRNAを高発現しており、破骨細胞分化の決定と分化状態の維持においてWT1アンチセンスRNAが重要な役割を担っていることが強く示唆された。

 尚、本論文はAmerican Journal of Pathologyの同じ号の解説で「Antisense Sense in Osteoclasts」というタイトルでDr. Teun J. de Vriesにより紹介されました。 更に、同誌よりトピックとして同誌のFacebook page (https://www.facebook.com/AJPathology)でも紹介されました。

久木田 敏夫

著者コメント

破骨細胞がWT1アンチセンスRNAを発現することを示すin situ hybridizationのデータは得ていたのですが、機能が不明でした。生化学が得意な元助教の李銀姫さんが本研究に参加し、WT1アンチセンスRNAの機能の一端を明らかにすることができました。本研究の分子生物学的解析は佐賀大学医学部・久木田明子博士との共同研究で行いました。李博士は母国の中国に帰国しましたが、助教の久本(旧姓・中村)由香里博士も本研究に加わり、研究を進めることができました。本論文は、破骨細胞が特定の機能を有するアンチセンスRNAを発現することを示した最初の報告、ということで意味があると思います。WT1アンチセンスRNAの発現機構の解析等、今後の研究課題です。(九州大学大学院歯学研究院口腔常態制御学講座・分子口腔解剖学分野・久木田 敏夫)