腹部大動脈瘤形成には、血管におけるマクロファージの破骨細胞分化が関与している
著者: | Takei Y, Tanaka T, Kent KC, Yamanouchi D. |
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雑誌: | Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2016 Sep;36(9):1962-71. doi: 10.1161/ATVBAHA. 116.307715. Epub 2016 Jul 7. |
- 動脈瘤
- 血管石灰化
- 破骨細胞
Jon S. Matsumura邸にて筆者の送別会。
筆者(左から2番目)と山之内先生(左から1番目)、田中先生(右から2番目、奥)。
論文サマリー
高齢者や糖尿病患者、透析患者において、血管石灰化は頻繁にみれる所見であり、閉塞性血管障害に関与すると考えられている。近年、硬組織における石灰化(あるいは溶灰)機構と同様に、血管石灰化も形成と破壊のバランスにより厳密に調節されていることが論じられているが、未だ不明な点が多い。本研究では、これまであまり論じられることのなかった血管組織における骨破壊に着目した。
我々はヒト動脈瘤のおよびCaPO4誘導性動脈瘤モデルマウスの血管標本を用い、形態学的・免疫組織学的解析析を行った結果、破骨細胞マーカーのTRAP陽性の巨大細胞や、同じく破骨細胞マーカーのcalcitonin受容体(CTR)とマクロファージマーカーであるCD68の二重陽性な細胞が病変部に存在することを確認した。一方、狭窄性動脈や健常な動脈ではほとんど確認されなかった。さらに、in situ ザイモグラフィーにより、これらの細胞は、未分化マクロファージに比較し、タンパク分解能が非常に高いことが明らかになった。このことから、この破骨細胞に極めて類似した細胞が血管の結合組織を破壊することにより、血管壁の脆弱化が引き起こされ、血管の瘤化を誘発していると推測し、骨吸収を抑えるビスホスホネートのin vivo試験を行った。その結果、ビスホスホネート投与は血管組織の破骨細胞の発現を抑制し、動脈瘤形成の進展を抑制した。また、血管組織における破骨細胞形成のメカニズムに関しても追及した。組織解析から瘤化した動脈ではTNFαの発現が高いこと、またCaシグナルが破骨細胞形成に関与していることから、培養したマクロファージにTNFαおよびCaPO4を共処理すると、細胞内のNFκBやMAPKsが活性化されること、また細胞内Caシグナルが増強し、結果、破骨細胞分化が促進されることを見出した。
以上の結果から、動脈瘤の病巣部に破骨細胞が存在すること、またこれらの細胞が動脈瘤形成に関与していることが明らかになった。今後、破骨細胞をターゲットにした動脈瘤の内科的治療法が確立されることを期待している。
ヒト動脈における石灰化と破骨細胞
A:ヒトの動脈石灰化像。 上図はmCT画像。下図はアリザリンレッドS染色像。
(左;健常な動脈、中央;狭窄性動脈、右;瘤化した動脈)
B:ヒト動脈標本のTRAP染色像。右側の瘤化した動脈標本のみ破骨細胞マーカー
TRAP陽性の細胞が確認された。
C:マクロファージマーカーCD68抗体および破骨細胞マーカーCTR抗体を用いたFACS解析。
マウスCaPO4誘発性動脈瘤における破骨細胞
D:TRAP染色像。
E:CD68およびCTRの二重染色像。
骨吸収抑制剤ビスホスホネートの動脈瘤進展抑制効果
A:ゾレドロネート(ZA)の濃度依存的動脈瘤抑制効果。
B:ZA投与による破骨細胞発現の阻害。
著者コメント
血管組織の石灰化機構に関して未だ議論する部分がありますが、骨の主成分となるパーティクルが集積することは事実です。瘤化した動脈では、狭窄性動脈に比べ血管に集積する骨塩が非常に少ないことから、特定な条件下の血管組織では、溶解する標的(骨塩)を得た破骨細胞前駆細胞は破骨細胞へと分化し、石灰化した血管組織の破壊が進行(瘤化)し、最終的に血管破裂を引き起こすのではないかと仮説を立て、この研究が始まりました。山之内ラボに着任当時、隣のラボのYang博士のご厚意でRAW264.7細胞を頂戴し、また様々な助言も頂きました。本研究の発案者であり私のボスである山之内先生、仕事を引き継いでくれた田中先生筆頭に多くの方々の支援と時間をかけ、形になった論文が多くの人に読んでもらえることを期待しております。また、この場を借りて、お世話になった全ての関係者様にお礼を申し上げます。(高知県立大学健康栄養学部臨床栄養学教室・竹井 悠一郎)