日本の血液透析患者は大腿骨近位部骨折の発症リスクが高い
雑誌: | JBMM Vol.31 No.3 p315-321 |
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- 血液透析
- 骨折
- 発症率
責任著者の風間 順一郎先生(現 福島県立医科大学 腎臓高血圧内科教授)と筆者。
この原稿(1st Author)のために仙台で撮影した写真です。
論文サマリー
本研究は、日本の血液透析患者の大腿骨近位部骨折発症率を算出し、一般住民の約5倍であることを明らかにしたものです。
これまで米国白人での検討で、透析患者の大腿骨近位部骨折発症率は一般住民の約4倍であることが報告されていました(Alem AM, et al. Kidney Int 58:396-9,2000)。しかし、人種により大腿骨近位部骨折発症率は異なること、また、日本の透析患者の生命予後は米国よりも優れていることから、日本人での検討が必要でした。
そこで、日本透析医学会の統計調査データセットを用いて、日本の血液透析患者での大腿骨近位部骨折発症率を算出しました。この統計調査は、日本透析医学会が日本国内の全透析施設(非会員施設も含む)を対象に毎年行っている調査で、1968年から継続され、その回収率は95%以上です。2007年末から大腿骨近位部骨折の既往に関する調査が行われるようになったため、本研究では2007年末と2008年末のデータを用いました。
解析対象者は2007年末に、週3回の施設血液透析を行っており、大腿骨近位部骨折既往調査で「既往なし」と回答した128,141人(男性61.9%)、アウトカムは2008年末における大腿骨近位部骨折発症、2008年末の大腿骨近位部骨折既往調査で「既往あり」と回答した場合と定義しました(初回の大腿骨近位部骨折しか検出できないという研究デザイン上の限界があることにご注意ください)。解析対象者の臨床的特徴(年齢、男女比、透析歴など)は日本の全透析患者の分布と同様でした。観察期間内に1,437人の大腿骨近位部骨折発症を認め、血液透析患者の大腿骨近位部骨折発症率は1万人年あたり男性75.7、女性174.3であり、どの年齢階級でも男性よりも女性が高い結果でした(図1)。
この発症率を一般住民の2007年全国調査(Orimo H, et al. Arch Osteoporos 4:71–77,2009)と年齢を調整して比較したところ、血液透析患者では、男性は一般住民の6.2倍(95%信頼区間5.7~6.8)、女性は4.9倍(4.6~5.3)と高く、透析歴1年未満であっても、すでに高いことが明らかになりました(図2)。
以上から、日本人においても、透析患者の大腿骨近位部骨折発症率は一般住民と比較して約5倍と高く、また、透析歴別での検討から、透析歴が1年未満と短くても透析患者の骨折発症率は高いことから、透析患者の骨折予防には保存期からの介入が必要であることが示唆されました。
著者コメント
このたびJBMM論文賞という素晴らしい賞をいただき、大変光栄に存じます。本論文を引用してくださった皆様ならびに関係の皆様に心から感謝申し上げます。本論文には、血液透析患者の大腿骨近位部骨折発症率でも西日本で高く東日本で低いという一般住民と同様の地域差を認めるという姉妹論文があります(Ther Apher Dial. 18:162-6, 2014)。こちらはあまり引用されていないのですが、一般住民と透析患者に共通の何らかの要因が、骨折発症の地域差に影響している可能性が考えられ、透析患者の骨折発症リスクを検討することは、一般住民における地域差の原因解明にも貢献できるかもしれません。本学会ホームページの関連団体に、私にとって大切な日本透析医学会や日本腎臓学会は含まれていませんが、いつか含まれる日を夢見ながら、多くの論文に引用され臨床現場に役立つ研究を発信できるよう、これからも努力していきたいと思います。
最後になりましたが、本研究は平成21年度日本透析医学会統計調査委員会公募研究に採択され、解析する機会を得ました。このような機会を与えてくださった日本透析医学会統計調査委員会と、本調査にご協力いただいているすべての透析施設の患者さんと関係者の皆様に、心から感謝申し上げます。(新潟大学大学院医歯学総合研究科地域医療長寿学講座・若杉 三奈子)