無機リン酸は、AKT/mTORC1シグナルを活性化し、Klotho欠損マウスの短命を引き起こす
著者: | Kawai M, Kinoshita S, Ozono K, Michigami T. |
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雑誌: | J Am Soc Nephrol. 2016 Sep;27(9):2810-24. |
- Klotho
- Phosphate
- Aging
論文サマリー
無機リン酸(Pi)は、種々の生物学的プロセスに関与する重要な栄養素であるが、近年過剰なPiが加齢を促進する可能性が指摘されている。しかし、過剰なPiが加齢を促進させる分子生物学的機序は不明である。 そこで、我々は、FGF23シグナルの欠如に伴い高リン血症を呈するKlotho欠損マウス(Kl-KO)を用いて、高リン血症と加齢との関連性の検討を行った。Kl-KOは短命を呈するが、低リン食により高リン血症を是正するとKl-KOマウスの短命は改善した。この結果から、高リン血症はKl-KOの短命を規定する重要な因子であることを確認できた。最近、Pi自身がシグナルを伝達することが報告されているため、野生型マウス、Kl-KOを用いて、複数のシグナル伝達分子の発現を比較検討したところ、Kl-KOマウスでは、AKT/mTORC1シグナルが亢進しており、高リン血症を是正するとこのシグナルが野生型マウスのレベルに低下することが判明した。そこで、mTORC1の活性化がKl-KOにおける短命の原因となっているのかどうかをmTORC1阻害薬であるラパマイシンを用いて検討したところ、ラパマイシンはKl-KOマウスの寿命を延長した。この結果から、高リン血症に伴うmTORC1の活性化は、Kl-KOマウスの寿命を短縮させることが判明した。高リン血症がAKT/mTORC1シグナルを活性化する機序としては、Pi刺激によりPTENのC末端に存在するセリン残基がリン酸化され、PTENの膜局在が低下するためと考えられた。また、mTORC1の活性化は酸化ストレスの蓄積をKl-KOマウスにおいて亢進すること、そしてラパマイシンの投与により酸化ストレスの蓄積が軽減することが判明した。さらに、mTORC1の活性化は、ナトリウム・リン酸共輸送担体であるNpt2aの腎尿細管刷子縁での局在を増加させ、その結果リンの再吸収を亢進させること、そしてラパマイシン投与によりリン再吸収が部分的に抑制され高リン血症が改善することが判明した。このように、高リン血症は、mTORC1を活性化することで酸化ストレスの蓄積を増加させるとともに、リンの再吸収を増強することで高リン血症をさらに悪化させ、悪循環を引きおこしていることが判明した。これらの結果から、ラパマイシンが高リン血症に伴う加齢促進症状に対しする治療戦略になりうる可能性が示唆された。
著者コメント
本研究は、最近注目を浴びているリンと寿命に関して、Kl欠損マウスを用いて検討を行ったものです。寿命という慣れない分野の研究であったので、いろいろと乗り越えるべきポイントがたくさんあったのですが、道上先生をはじめとする研究室のメンバーの協力で論文化することができました。この場を借りて感謝申し上げたいと思います。(大阪府立母子保健総合医療センター研究所 環境影響部門・川井 正信)