日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 後藤 洋

CXCR4+CD45-細胞は骨髄内において、SDF-1、CXCL7およびCX3CL1シグナルを介して破骨細胞形成のための微小環境を構成している

CXCR4+CD45- cells are niche forming for osteoclastogenesis via the SDF-1, CXCL7, and CX3CL1 signaling pathways in bone marrow.
著者:YOH GOTO, MINEYOSHI AOYAMA, TAKEO SEKIYA, HIROKI KAKITA, YUKO WAGURI-NAGAYA, KEN MIYAZAWA, KIYOFUMI ASAI, SHIGEMI GOTO
雑誌:Stem Cells. 2016 Jun 24. doi: 10.1002/stem.2440. [Epub ahead of print]
  • 破骨細胞形成
  • CXCR4+CD45-細胞
  • 微小環境

後藤 洋

論文サマリー

骨の恒常性は、骨形成を担う骨芽細胞と骨吸収を担う破骨細胞の相互作用によって維持されている。このバランスが崩れることによって、骨粗鬆症などの病態が引き起こされる。骨芽細胞は間葉系細胞から分化するのに対し、破骨細胞は骨髄球系細胞から分化することが報告されている。破骨細胞の分化には、骨芽細胞で発現するRANKLから破骨前駆細胞で発現するRANKへのRANKL/RANKシグナルが重要であるが、その他の破骨細胞分化を誘導する微小環境に関わる細胞集団の存在はいまだはっきりしていない。そこで、フローサイトメーターを用いて破骨細胞形成に重要な微小環境を構成する細胞を同定し、破骨前駆細胞との相互作用の検討を行った。これまでに私たちの研究グループは、マウス骨髄細胞由来の破骨細胞培養実験において非破骨細胞集団から分泌されるSDF-1が破骨細胞の巨大化に影響していることを報告した。そこで、SDF-1の受容体であるCXCR4を発現する間葉系細胞CXCR4+CD45-細胞に注目することにした(図1)。

後藤 洋
図1:マウスの全骨髄細胞に対するCXCR4+CD45-細胞の割合

まず、マウスの骨髄細胞からCXCR4+CD45-細胞を除いた細胞群をRANKLおよびM-CSF存在下で培養したところ、破骨細胞の巨大化が抑制されることを明らかにした(図2)。

後藤 洋
図2:骨髄からCXCR4+CD45-細胞を除くと巨大な破骨細胞形成が抑制される

さらに、遺伝子発現解析を行ったところCXCR4+CD45-細胞は、RANKおよびRANKLの発現が低くRANKL/RANK経路には直接的に関与しない細胞集団であることが確認された。さらにCXCR4+CD45-細胞は、SDF-1、CXCL7、CX3CL1といった重要なケモカインの発現が高いことが判明した。そこで、各種ケモカインに対する中和抗体添加実験を行ったところ、SDF-1、CXCL7、CX3CL1中和抗体をそれぞれ加えると破骨細胞形成が抑制されることが確認された。これらの結果からCXCR4+CD45-細胞は、SDF-1、CXCL7、CX3CL1を発現し、これらの受容体をもつ細胞に作用し、適切な破骨細胞形成のための微小環境を構成する役割を果たしていることが推測された。すなわち、CXCR4+CD45-細胞の機能をコントロールすることは、骨恒常性の維持を喪失した疾患に対する治療法の開発に、一石を投じることになるかもしれないと考えられた。

著者コメント

私は、愛知学院大学歯学部歯科矯正学講座に入局後、歯学研究科博士課程に進学し、後藤滋巳教授の計いにより、名古屋市立大学医学部分子神経生物学教室にて「破骨細胞の分化」に関する研究に取り組みました。本研究では従来のマウス骨髄細胞を直接破骨細胞へと分化する培養方法と異なり、マウス骨髄細胞の中からフローサイトメーターを用いて回収した特定の細胞集団から破骨細胞を作成する培養方法を用いました。細胞のバイアビリティーをいかに保持するかが重要で安定した解析の実現に苦労しました。それでも共著者の先生方のご協力により、ようやく論文を完成させることができました。後藤滋巳教授、浅井清文教授、宮澤健教授、青山峰芳教授をはじめとする多くの先生方に心より感謝申し上げます。(愛知学院大学歯学部歯科矯正学講座・後藤 洋)