日本骨代謝学会

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ヒト骨髄間葉系幹細胞の無血清培養上清による多面的な骨延長治癒促進効果の検討

Stem cell-conditioned medium accelerates distraction osteogenesis through multiple regenerative mechanisms.
著者:Ando Y, Matsubara K, Ishikawa J, Fujio M, Shohara R, Hibi H, Ueda M, Yamamoto A.
雑誌:Bone. 2014 April 61: 82-90
  • 骨延長
  • 幹細胞培養上清
  • Secretome解析

安藤友二・山本朗仁

論文サマリー

骨延長術は生体内幹細胞の動員によって組織再生を可能にする大型組織再建術である。これまでに骨延長術の早期治癒を目的として骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)移植が検討されてきたが、移植細胞の生着率は極めて低く、細胞移植の効果の多くはパラクライン効果によるものと考えられている。本研究では、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞から得られた無血清培養上清(MSC-CM)がマウス骨延長モデルにおいて仮骨形成を促進することを示した。さらにMSC-CMが含有する骨再生促進因子群を同定し、MSC-CMの骨延長治癒促進効果の詳細を検討した。
MSC-CM・コラーゲン複合体をマウス骨延長モデルに局所投与すると、組織学的に骨延長仮骨形成を促進し、骨延長術の早期治癒を可能とした。MSC-CMの治療効果はMSC移植群と同等であった。MSC-CMはSca-1/PDGFR-α 陽性マウス間葉系幹細胞(mBMSC)および CD31陽性血管内皮細胞の集積を促進した。MSC-CMが含有する骨再生関連分子群を抗体アレイによるSecretome解析にて絞り込み、MSC-CMが含有する43因子を同定した。分子特異的な中和抗体を用いたIn vitro Knockdown解析によって、MSC-CMが含有する「骨髄単核球分画や血管内皮細胞の細胞遊走促進因子」、「骨髄細胞の骨芽細胞への分化促進因子」を同定した。
MCP-1/ -3は骨髄単核球分画、IL-3/-6は血管内皮細胞の細胞遊走に不可欠であった。IL-3/-6は骨髄細胞の骨芽細胞への分化促進にも不可欠であった。免疫沈降法を用いてこれら骨再生促進分子群をMSC-CMから特異的に除去したdepleted MSC-CM (dMSC-CM)を製作し、その骨延長治癒促進効果の詳細を検討した。MCP-1/-3を欠いたdMSC-CM(MSC-CM-MCP-1/-3)のmBMSC集積効果は著しく低く、仮骨形成促進効果を示さなかった。しかしながら一方重要なことに、MCP-1/-3リコンビナントタンパクの単独投与では仮骨形成促進効果が得られず、延長部位には炎症系細胞の集積が確認された。これらの解析結果から、MSC-CMは生体内幹細胞の集積、血管再生促進、骨芽細胞への分化誘導に加え、炎症制御・免疫調整など多面的な治療効果によって骨再生を促進すると考えられた。

著者コメント

幹細胞を用いた再生医療は、有効な治療法の無い難治性疾患に、高い治療効果を発揮すると期待されています。しかしながら、その治療メカニズムの多くは不明のままです。私どもの研究室では、幹細胞治療の臨床応用だけでなく、その基盤となる原理の解明を目指しています。今回、ヒト骨髄間葉系幹細胞が分泌する骨組織再生因子群の同定と機能解析を試みました。結果、幹細胞が様々な組織再生因子群の協調作用によって、生体の自己組織再生能力を活性化し、骨再生を促すことを見出しました。将来的には、幹細胞由来の再生因子のみで組織再生を促すような新しい治療法が開発できると考えています。(名古屋大学大学院医学系研究科、安藤友二・山本朗仁)