日本骨代謝学会

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腱の異所性石灰化は BMP-smadシグナルが関与し、生体力学的特性の劣化と連動する

Tendon mineralization is progressive and associated with deterioration of tendon biomechanical properties, and requires BMP-Smad signaling in the mouse Achilles tendon injury model.
著者:Zhang K, Asai S, Hast MW, Liu M, Usami Y, Iwamoto M, Soslowsky LJ, Enomoto-Iwamoto M.
雑誌:Matrix Biol. 2016 May-Jul;52-54:315-24.
  • 異所性石灰化
  • アキレス腱
  • BMPシグナル

岩本 資己・浅井 秀司

論文サマリー

 腱は筋肉と骨をつなぐ結合組織であり、筋肉の力(収縮と弛緩)を骨に伝達し、骨格のなめらかな動きを可能にする。腱は粘弾性 (viscoelasticity)を保持し、大部分がI型コラーゲン線維で構成され、その線維の直径は100-500nmもあり、他の結合組織の線維と比較し非常に太く、並行した配列をとる。腱の修復能力は低く、切断などの障害を受けると組織学的および生体力学的な完全回復は望めない。また、反復的な過剰使用などに伴い、腱の変性や断裂が生じ、機能不全や痛みを誘導する。我々は腱の修復を促進する治療方法の開発を目的として、マウスアキレス腱完全切断モデルを用いて、腱の変性と修復における分子学的および細胞学的メカニズムを研究している。本論文ではアキレス腱切断後に誘導される異所性石灰化に注目し、(1)石灰化の経過、(2)石灰化が及ぼす生体力学的な影響および(3)石灰化の分子機構について検討した。

 本動物実験系で誘導される異所性石灰化は、異所性軟骨が先に生じることと誘導された骨に軟骨性物質が残存することから、 内軟骨性骨化により誘導されるものであると考えられている。マウスの右アキレス腱を完全切断し、10週後と25週後において、異所性石灰化物質の量をマイクロCTで計測するとともにアキレス腱の生体力学的特性を引っぱり試験により測定した。その結果、石灰化量は術後10週に比較し術後25週で有意に増加していた(A-C)。さらに切断側のアキレス腱中央部の max force、mat stressおよびmodulusは、術後10週に比較し25週で有意に低い値を示した。これらの知見はアキレス腱切断後に生じた異所性石灰化は進行し、障害を受けた腱の生体力学的特性も劣化していくことを示している。つぎに、異所性石灰化の分子機構の検討を行った。すでに、先天的および後天的な異所性骨化(heterotopic ossification)の誘導において、BMPシグナルが上昇することおよびBMPシグナルの阻害が骨化を抑制することが報告されている。そこで、 アキレス腱切断後のBMPシグナルの変化を遺伝子発現と組織学的解析により調べた。障害を受けたアキレス腱において、BMPシグナル関連分子の発現は術後1週で著明に上昇し、術後2週でピークに達し、術後4週においても有意に上昇していた。BMPシグナルの活性化はリン酸化smad1/5/8の組織学的染色においても確認された。最後に、BMP-smadシグナルをsmad1/5/8のリン酸化阻害剤であるLDN193189で阻害し、異所性石灰化に対する影響を調べた。LDN193189は アキレス腱切断後に誘導される異所性石灰化量を有意に減少させた (D-F)。以上の結果から、腱障害後の異所性石灰化の誘導にはBMP-smadシグナルが必要であることと、石灰化の進行は腱の生体力学的特性の劣化を伴うことが示唆される。 アキレス腱切断後の異所性石灰化の報告はなされているものの、その発症率と予後に及ぼす 影響についての検討はいまだ不十分である。本研究は異所性石灰化を阻害することにより、腱の機能回復を促進できることを示唆するものである。

岩本 資己・浅井 秀司

著者コメント

 本研究は私の研究室に来てくれた浅井秀司先生とDr. Kairui (Cary) Zhang (Southern Medical University, China) の実験結果をまとめたものです。私は実験の結果をみせてもらい、なんやかやと話をしているだけでした。腱修復の研究は浅井先生が私の研究室に留学されたときに始めたものです。すべてが 、手探りの状況から出発しました。 浅井先生の素晴らしい洞察力、粘り強さと丁寧で正確な実験手技のおかげで、腱の研究の基礎を築くことができました。Shuji とCaryに感謝いたします。(フィラデルフィア小児病院・岩本 資己)
 もともとは関節軟骨の研究をするつもりで岩本ラボに留学しましたが、気がついたら毎日のようにマウスのアキレス腱を切っていました。腱の研究はラボの誰も経験したことがなく手探り状態で失敗の連続だったため、研究成果が論文という形になった時は喜びもひとしおでした。そして何よりも、ひとつのプロジェクトを立ち上げて完遂するというプロセスを経験できたことが、その後の研究生活において大きな糧となっています。このような貴重な経験ができたのも、岩本資己先生はもちろんのこと、多くのアドバイスをしてくださった大鶴聰先生(Nationwide Children's Hospital, Columbus)、同じラボで苦楽をともにした大田陽一先生(大阪市立大学整形外科)など多くの方々のおかげです。(名古屋大学整形外科・浅井 秀司)