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血清ADMA濃度と筋力・歩行速度の関連:平城京コホートスタディ

Association of Serum Asymmetric Dimethylarginine with Muscle Strength and Gait Speed: A Cross-Sectional Study of the HEIJO-KYO Cohort.
著者:Obayashi K, Saeki K, Maegawa T, Sakai T, Kitagawa M, Otaki N, Kataoka H, Kurumatani N.
雑誌:J Bone Miner Res. 2016; 31(5):1107-1113.
  • ADMA
  • 筋力
  • CKD

大林 賢史

論文サマリー

 高齢者の筋力や歩行速度の低下はその後の身体機能の低下や障害だけでなく、心血管疾患や予後に関連することが知られている。一酸化窒素(NO)は骨格筋における炎症反応の制御など重要な生理機能に関わっているが、内因性のNO産生阻害因子であるADMA(asymmetric dimethylarginine)の血中濃度と筋力や歩行速度の関連を報告した研究はない。我々は平城京コホートスタディの対象者550名(平均年齢 71.2歳)について、血清ADMA濃度、握力、大腿四頭筋力および通常歩行速度を測定し横断関連を検討した。対象者の平均ADMA濃度は0.45±0.06 μmol/L 、平均握力は27.7±8.4 kg、平均大腿四頭筋力は165.1±81.6 Nm、平均歩行速度は1.37±0.3 m/sであった。男女ともにADMA濃度の増加が握力の低下および歩行速度の低下を有意に関連していた(Figure)。大腿四頭筋力とADMA濃度の関連について男性では有意な負の関連を認めたが、女性では有意でなかった。交絡因子(年齢、性、BMI、喫煙、飲酒、年収、高血圧、糖尿病、腎機能、身体活動量)を調整した多変量線形回帰分析で、ADMA濃度は握力(β, -1.257; 95%信頼区間, -1.990 to -0.515; P = 0.001)、大腿四頭筋力(β, -11.730; -20.924 to -2.536; P = 0.012)、歩行速度(β, -0.065; 95%信頼区間, -0.108 to -0.022; P = 0.003)のすべての指標と有意に関連していた。

大林 賢史

ADMAを三分位値で3群(Low、Intermediate、High)に分け、慢性腎臓病の有無(CKDあり、CKDなし)と合わせて6群における筋力および歩行速度を検討した(Table)。Low ADMA + CKDなし群(n = 161)と比較して、握力はHigh ADMA + CKDなし群(n = 128)およびHigh ADMA + CKDあり群(n = 41)で有意に低下しており(それぞれP = 0.034、 P = 0.020)、大腿四頭筋力および歩行速度はHigh ADMA + CKDあり群で有意に低下していた(それぞれP = 0.009、 P = 0.001)。さらにADMAカテゴリとCKD有無の交互作用項は、独立して歩行速度と有意に関連していた(P for interaction = 0.002)。

大林 賢史

これらの結果から、高齢者で血清ADMA濃度が筋力や歩行速度と関連することが明らかになった。さらに慢性腎臓病で血清ADMA濃度が高い群で筋力や歩行速度の低下が顕著であり、ADMAと慢性腎臓病の歩行速度に対する交互作用を認めた。慢性腎臓病で多く認める身体機能低下にADMAが関与している可能性があり、今後の研究が期待される。

著者コメント

 本研究は血清ADMA濃度が筋力や歩行速度と関連することを明らかにした点で新規性が高い。またADMAは循環器疾患の危険因子であることや慢性腎臓病で血中濃度が増加することはよく知られているが、本研究の結果は、慢性腎臓病で多く認める身体機能低下のメカニズムにADMAが関与している可能性を示唆する点で重要であると考えられる。このほか平城京コホートスタディでは、抗酸化作用を有する松果体ホルモンであるメラトニンの分泌量低下が筋力低下と関連することなど新規性の高い研究報告(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016. in press)をしており、今後さらに精度の高い研究成果を公表していきたい。本研究は多くのスタッフや共同研究者のサポートおよび複数の研究助成を得て行うことができており、関係者の方々に深く感謝申し上げます。(奈良県立医科大学地域健康医学講座・大林 賢史)