日本骨代謝学会

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長期寝たきり患者における骨代謝障害

Disrupted Bone Metabolism in Long-Term Bedridden Patients.
著者:Eimori K, Endo N, Uchiyama S, Takahashi Y, Kawashima H, Watanabe K.
雑誌:PLoS One. 2016 Jun 8;11(6):e0156991.

榮森 景子

論文サマリー

背景
寝たきり患者はしばしば骨折が問題となる。荷重は骨代謝に大きな影響を与え、宇宙における骨代謝の報告でも言及されている。我々は生涯1度も歩行経験のない、30年以上に及ぶ寝たきり患者の骨代謝の特徴を調査・考察した。

対象・方法
1999年9月西新潟中央病院重症心身障害者病棟入院中で、出生後より調査時まで歩行経験のない18才以上の患者を対象とした。骨密度、オステオカルシン、尿中N-terminal telopeptide (NTX)、血中ビタミンD(25(OH)D)、intactPTH、血中カルシウム、リン、アルカリフォスファターゼ(ALP)を測定、寝たきり期間別に比較した(横断研究)。また、2011年9月に同項目を再度測定、1999年からの12年間で閉経による変化を受けない患者について、12年における変化を調査した(縦断研究)。

結果
・横断研究
対象は36人(女性17人 男性19人)で、1999年9月時年齢は32±7才。基礎疾患は脳性麻痺、脳炎後遺症、頭部外傷後遺症等であった。骨密度平均値 0.58±0.19 g/cm2、オステオカルシン13.9±12.4ng/mL、尿中NTX146.9±134.0 nM BCE/nMc、25(OH)D 11.9±6.9mg/dL、intactPTH 45.9±25.0 pg/mL。24人 (67%)が 日本骨粗鬆症学会ガイドラインにおける骨密度のカットオフ値 (0.708 g/cm³) を下回り、骨粗鬆症に該当。骨密度は寝たきり期間による差は認めず、オステオカルシンおよび尿中NTXは寝たきり期間と負の相関を示した(オステオカルシンp=0.02、R=0.39、尿中NTX p=0.02, R=0.38)。25(OH)D、intactPTHは寝たきり期間との相関は認めなかった。

・縦断研究
対象は1999年時年齢が30才未満の17人(女性8人, 47%)、平均年齢は 25.7±3.3才。
1999年と2011年とで平均骨密度に有意な変化はなかったものの、カットオフ値(0.708g/cm³)を下回った患者は13人から15人へ増加。12年間でオステオカルシンは有意な低下した。尿中NTXは低下傾向を示したが、統計学的有意差は認めなかった。25(OH)Dは有意に上昇し、intactPTHは低下した。
また、1999年における尿中NTX、P、ALP 値は2011年の骨密度と負の相関が見られたが、オステオカルシンは骨密度との相関を認めなかった。

考察及び結論
本研究結果で尿中NTXは骨折予測におけるカットオフ値を上回り、骨形成マーカーであるオステオカルシン値も骨折予測におけるカットオフ値よりも高値であった。生涯で歩行経験が1度もない寝たきり患者は、比較的若年ではオステオカルシン値と尿中NTXで高値であったが、12年の経過で低下を呈した。しかし、両マーカーは依然高いレベルであり、骨折リスクは依然として高い。
縦断研究結果において、尿中NTXは12年後の骨密度と負の相関関係を認めた。30年以上の寝たきり患者において骨吸収の亢進が骨量低下に大きな影響を与えている可能性がある。1999年における尿中NTX、血中リン、ALPは2011年の骨密度と相関を認めたことより、これら3つのマーカーは将来の骨密度の予測させる可能性が考えられた。
本研究の限界として、 対象者数が少ないことに加え、対象が重症心身障害者であり全ての寝たきり患者に当てはまるとは限らないこと、小児期の成長過程における骨代謝の経過が不明である点が挙げられる。
しかし30年以上にわたる長期寝たきりが骨に与える影響の報告は今までになく、本研究で患者の寝たきり期間によって骨代謝状態が変化することが分かった。さらに、生涯で1度も歩行経験のない症例のみを対象としていることから、将来の惑星間宇宙旅行、宇宙生活を考えるうえで重要な情報であろう。

著者コメント

 私が現在勤務する西新潟中央病院には120床の重症心身障害者病棟があり、注意深いケアにも関わらず時折骨折が発生するため整形外科医として関わります。その中で基礎疾患は多様でも寝たきりの患者は共通して骨脆弱性を持つことを感じた頃、現院長の内山政二先生より1999年に行った骨代謝の検査結果を見せて頂きました。そこで、重症心身障害者病棟の患者は生涯を終えるまでの長期入院が殆どであり、年月を経た結果の比較が可能であることから私の研究が始まりました。
私の研究と論文は、多くの幸運の上で成り立っております。研究を御指導頂いた遠藤直人教授をはじめ、西新潟中央病院の高橋美徳先生、関わった全ての方々に心から感謝いたします。(新潟大学医学部整形外科・榮森 景子)