日本骨代謝学会

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GPR126遺伝子内に存在する遺伝的変異が思春期特発性側彎症に関連する

Genetic variants in GPR126 are associated with adolescent idiopathic scoliosis.
著者:Kou I, Takahashi Y, Johnson TA, Takahashi A, Guo L, Dai J, Qiu X, Sharma S, Takimoto A, Ogura Y, Jiang H, Yan H, Kono K, Kawakami N, Uno K, Ito M, Minami S, Yanagida H, Taneichi H, Hosono N, Tsuji T, Suzuki T, Sudo H, Kotani T, Yonezawa I, Londono D, Gordon D, Herring JA, Watanabe K, Chiba K, Kamatani N, Jiang Q, Hiraki Y, Kubo M, Toyama Y, Tsunoda T, Wise CA, Qiu Y, Shukunami C, Matsumoto M, Ikegawa S.
雑誌:Nat Genet. 2013; 45(6): 676-9.
  • 思春期特発性側彎症
  • GWAS
  • GPCR

稲葉 郁代

論文サマリー

側彎症は背骨が側方に曲がる疾患で、その多くは原因が特定できない特発性側彎症である。中でも思春期特発性側彎症(adolescent idiopathic scoliosis: AIS)は、最も発症頻度が高い。AISは遺伝的因子と環境的因子の相互作用により発症する多因子遺伝病である。我々は2011年に日本人女性のAIS患者1,033人と対照者1,473人のDNAサンプルを用いてゲノムワイド相関解析(genome-wide association study: GWAS)を行い、AIS のなり易さ(疾患感受性)を決定する遺伝子としてLBX1を同定した。しかし、多因子遺伝病であるAISの原因や病態を解明するには、さらなる遺伝子の同定が必要である。そこで本研究では、前述のGWASに対し新たにX染色体を解析し、患者サンプルを増やした再現解析を行うことにより、新たなAIS感受性遺伝子の同定を試みた。前述のGWASの結果、LBX1領域以外に6番、4番、X染色体の3カ所に高い相関を示すSNPをみつけた。これらのSNPをAIS患者786人と対照者24,466人からなる別の日本人集団を用いて調べたところ、6番染色体上のSNP(rs6570507)で相関が再現された。結果を統合すると、rs6570507の相関はP=2.25×10−10となり、このSNPを持つと発症のリスクが1.28倍高まることが明らかになった。さらにAIS患者743人と対照者1,209人からなる中国人集団とAIS患者447人と対照者737人からなる欧米人集団でもrs6570507の相関が再現された。rs6570507はGPR126(G protein-coupled receptor 126)のイントロン内に存在していた。GPR126遺伝子領域内を網羅的に解析すると、rs6570507とほぼ完全連鎖し、同程度の強い相関を示すSNPが複数みつかった。GPR126は、ヒトでは軟骨で発現が高く、マウスの脊椎の成長軟骨板では増殖軟骨細胞層に発現していた。GPR126はヒトの身長や体幹の長さに関与する遺伝子としても知られ、Gpr126欠損マウスでは成長障害がみられる。ゼブラフィッシュを用いた我々の研究でもGPR126の機能阻害により椎骨の骨化遅延および成長障害がみられたことから、GPR126の異常は軟骨の形成障害を通じてAIS発症に関与することが示唆される。今後、GPR126 の機能とAIS発症の経路をさらに詳しく調べることで、分子レベルでのAISの病態の理解が進み、新たな治療薬の開発が期待される。

稲葉 郁代

稲葉 郁代

著者コメント

私は修士課程修了後、SNPを用いた疾患感受性遺伝子の同定、さらには「オーダーメイド医療」の実現化プロジェクトが始まることを知り、研究を通じて人々の生活に貢献したいと考え、池川先生の下、骨関節疾患感受性遺伝子の研究に携わってきました。今日の研究は多くの臨床医の先生方、患者さん、共同研究者の協力のもとに成り立っています。GWASでは慶應義塾大学医学部 整形外科の松本先生を中心とした側彎症臨床学術研究グループの先生方に、機能解析では宿南先生をはじめとする京都大学再生医科学研究所 開研究室の方々に多大なご協力をいただきました。多くの方に支えていただき、このような研究成果が得られたことを心より感謝しています。(理化学研究所 統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チーム・稲葉 郁代)