日本骨代謝学会

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ゼブラフィッシュを用いた思春期特発性脊柱側弯症に関連するノンコーディングバリアントの機能解析: ladybird homeobox遺伝子の発現亢進は体軸変形を誘導する

Functional investigation of a non-coding variant associated with adolescent idiopathic scoliosis in zebrafish: elevated expression of the ladybird homeobox gene causes body axis deformation
著者:Long Guo, Hiroshi Yamashita, Ikuyo Kou, Aki Takimoto, Makiko Meguro-Horike, Shin-ichi Horike, Tetsushi Sakuma, Shigenori Miura, Taiji Adachi, Takashi Yamamoto, Shiro Ikegawa, Yuji Hiraki, Chisa Shukunami.
雑誌:PLOS Genet. 12:e1005802, 2016.
  • LBX1
  • 思春期特発性側彎症
  • ゼブラフィッシュ

郭 龍

論文サマリー

 脊柱側弯症は、脊骨が側方に曲がり捻れる疾患である。発生頻度が高く、進行すると治療が困難なため、日本では学校保健法で脊柱検診を行うことが義務づけられている。脊柱側弯症のほとんどは、原因不明(特発性)の思春期特発性側弯症(Adolescent Idiopathic Scoliosis, AIS)と呼ばれるタイプである。10歳以降の成長期に発症するAISは、特に女性に多い疾患で、日本人の約2%に見られる。AISは多因子遺伝性疾患と考えられており、病因療法の開発はあまり進んでいない。2011年に理化学研究所統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダーらによるゲノムワイド相関解析(Genome Wide Association Study, GWAS)から、AISと強く相関する一塩基多型(SNP) rs11190870が同定された。rs11190870の近くには、ladybird homeobox 1 (LBX1)という遺伝子が存在するが、AIS発症との機能的な関連性は、明らかになっていなかった。本研究では、Chromosome conformation capture法やLuciferase法による解析によって、rs11190870を含むゲノム領域がヒトLBX1遺伝子のプロモーター領域と相互作用し、転写活性を上昇させることを明らかにした。次に、遺伝子注入などの操作が容易で、胚が透明で観察しやすいゼブラフィッシュを用いて、ヒトLBX1とそのゼブラフィッシュ相同遺伝子(lbx1a、lbx1b、lbx2)の機能を個体レベルで解析した。その結果、これらの遺伝子をゼブラフィッシュに過剰発現させると、胚の体軸が弯曲することが分かった。最も重篤な体軸の弯曲はlbx1bの過剰発現によって誘導され、発現量と変形の程度は正に相関していた。一方、Transcription activator-like effector nucleases (TALENs) を用いたゲノム編集によって作成したlbx1bの欠失体では、体軸形成の異常は観察されなかった。

  Lbx1bを過剰発現したゼブラフィッシュでは、非古典的Wntシグナル経路のリガンドであるwnt5bの発現が減弱し、体軸形成に重要な役割を果たしている収斂伸張運動を遅らせることも明らかになった。この時、wnt5bの下流で機能するRhoAを同時に発現させると、lbx1b過剰発現による体軸変形が一部回復した。lbx1bの内在性エンハンサーを用いて、lbx1bをモザイク状に発現させると、多くの個体で椎骨奇形を伴う側弯が観察された。一方で、少数ではあるが、椎骨奇形を伴わずに成長に伴って体軸が弯曲しAISに似た側弯を示す個体も観察された。以上の結果から、LBX1の発現上昇がAISの発症に関与することが示唆された。

郭 龍

著者コメント

 私は中国の西安交通大学医学研究科修士課程(外科学分野)に在学中から、ずっと硬組織の形成や再生に興味を持っていました。平成21年11月末、在中国日本国大使館に推薦されて、日本の文部科学省から奨学金を獲得しました。長春での10ヶ月間の日本語研修を経て、平成22年10月に京都大学再生医科学研究所の開祐司先生の研究室に受け入れていただき、平成23年4月から京都大学大学院医学研究科の博士課程の大学院生として研究を開始しました。開研究室は、硬組織の形成と再生の分子機構を解明する研究を行っていて、平成24年から理化学研究所の池川志郎先生の骨関節疾患研究チームと共同研究が始まり、LBX1とAISの機能生物学的な相関性を探索し始めました。通常、ヒトの疾患に関わる遺伝子の機能解析には、ラットやマウスなどの哺乳類モデルがよく使われますが、Lbx1に関しては側弯に関する表現型は見出されていませんでした。ところが、ゼブラフィッシュを用いて実験を行うと、AISに似た体軸弯曲が観察されました。進化的により離れた魚類で変化が観察できたことに、私自身驚きを隠せませんでしたが、四足歩行の哺乳動物が体軸を前後に動かすのに対して、体軸を左右に動かして泳ぐ魚の方が二足歩行のヒトに似た背骨の使い方をしていることを考えると納得がいきました。改めて、ヒトは哺乳動物だからという先入観にとらわれないチャレンジ精神の必要性を実感しました。本研究の遂行にあたっては、御指導頂いた広島大学の宿南先生、京都大学の開先生、理化学研究所の池川先生をはじめ多くの共著の先生方のご協力を賜り、心より感謝申し上げます。(京都大学再生医科学研究所・郭 龍)