日本骨代謝学会

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Sp7/Osterixは骨を有する脊椎動物に限定され、骨芽細胞分化決定においてDlxのコファクターとしてはたらく

Sp7/Osterix Is Restricted to Bone-Forming Vertebrates where It Acts as a Dlx Co-factor in Osteoblast Specification
著者:Hojo H, Ohba S, He X, Lai LP, McMahon AP.
雑誌:Dev Cell. 2016 Apr 26. pii: S1534-5807(16)30197-6.
  • 骨芽細胞
  • Sp7/Osterix
  • ChIP-seq

北條 宏徳
Andrew P. McMahon教授(左)と著者(右)

論文サマリー

Sp7/osterixはSp転写因子ファミリーに属し、骨芽細胞分化に必須である。本研究は、マウス新生仔頭蓋骨骨芽細胞におけるSp7結合領域と遺伝子発現の網羅的探索を通じて、骨芽細胞ゲノムにおけるSp7の作動様式の解明を目指した。まずBiotin-3xFLAGをSp7遺伝子座にノックインしたマウスを作製し、FLAGタグを用いたChIP-seq解析により、Sp7結合領域2,112箇所を同定した。次にSp7-GFPレポーターマウスを用いて、FACSにより単離したGFP陽性細胞においてRNA-seqを行い、本細胞で高発現する遺伝子群(骨芽細胞遺伝子群)を同定した。これらを用いた解析により、Sp7は骨芽細胞遺伝子群を標的とするエンハンサー作用を有することが示唆された。

Sp7が属するSp転写因子ファミリーメンバーは、高度に保存されたジンクフィンガードメインを介して、GCリッチな特異的DNA配列であるGCボックスと結合してその機能を発揮すると考えられていた。しかしながら、ChIP-seq解析から予測されたSp7結合モチーフには、GCボックスは有意に存在せず、代わりにホメオボックス転写因子の結合配列を含むATリッチなモチーフ(AT-motif)が大部分であった。AT-motif上でSp7の直接結合が検出されなかったことから、パートナー因子の存在が示唆され、モチーフデータベースを用いた探索とRNA-seq解析によりDlx3,5,6がその候補として挙げられた。骨芽細胞株を用いたChIP-seqと分子生物学実験により、Sp7はDlxファミリーと転写複合体を形成することでAT-motifに作用する可能性が示唆された。骨芽細胞株におけるSp1 ChIP-seqとの比較解析により、Sp7作動様式はSp1のそれとはまったく異なることが確認された。さらにジンクフィンガードメインにおけるSpファミリー間のアミノ酸配列比較解析により、Sp7は特異的なアミノ酸配列を有しており、それがSp7のユニークな作動様式に寄与することが示唆された。最後に、このSp7の構造的な特徴に由来する生物学的な作用の進化的な意義について検証するため,脊索動物において,Sp7のもつジンクフィンガードメインのアミノ酸配列,あるいは,それと最も相同性の高いアミノ酸配列を比較した。その結果,骨組織をもつ脊椎動物のみがSp7に特異的なアミノ酸配列を有していた。したがって,脊椎動物の進化において,Spファミリーの他のメンバーとは異なる作動様式をもつSp7は,骨組織を形成する骨芽細胞の出現にともない獲得された可能性が示唆された。

北條 宏徳
本研究で提唱された、骨芽細胞におけるSp7作動様式と、生物進化におけるSp7と骨を有する脊椎動物との関連性のモデル

著者コメント

骨形成におけるマスターレギュレーターのゲノムワイドな作動様式の解析を通して、骨形成をゲノムレベルで俯瞰的にとらえたいと考え、本研究を開始しました。今回見い出されたSp7の作動様式は、研究当初はまったく予想外のものであり、検証実験に多くの時間を費やしました。従来のin vitro解析では検出することの困難な生命現象をin vivo ChIP-seq解析がはじめて明らかにした、そんなChIP-seq解析のパワーと奥深さを学ぶ貴重な経験でした。
研究遂行にあたって、Andrew P. McMahon先生、大庭伸介先生および研究室の同僚達に厚く感謝申し上げます。留学前までバイオインフォマティクスを全く触ったことがなかった著者が、曲がりなりにも一通りの解析を自力でできるようになったのは、先生方の叱咤激励、貴重なご助言、および遅々として進まなかった私の解析を我慢強く見守っていただいたおかげです。著者は2016年6月に帰国し、鄭先生と大庭先生のご指導の下、骨形成転写ネットワーク解析をさらに発展させるため、研究体制を整えております。(東京大学大学院工学系研究科・北條 宏徳)