Wntシグナル調節因子sFRP-4の骨格形成及び老年性骨量減少における役割について
著者: | Haraguchi R, Kitazawa R, Mori K, Tachibana R, Kiyonari H, Imai Y, Abe T, Kitazawa S. |
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雑誌: | Sci Rep. 2016 Apr 27;6:25198. |
- sFRP4
- Wnt
- Age-Related Bone Loss
論文サマリー
Wntシグナル経路は、体内の骨量を調節するシグナル伝達系の一つであり、その活性化は骨形成の要となる骨芽細胞の機能亢進を介して骨量を増大させる。その一方で、過剰なWntシグナルは骨腫瘍や骨関節疾患の発生・進展を助長することも知られており、その活性を適正に制御するシグナル調節因子が多数同定されてきた。生理的な老化(加齢)において骨量は徐々に減少していくが、その要因の一つが加齢に伴い増加した酸化ストレスが引き起こす骨芽細胞の機能低下である。近年私どもは、酸化ストレス下の骨芽細胞で生じるエピゲノム変化を介したWntシグナル阻害蛋白sFRP-4の再活性化が、酸化ストレス誘発性の骨芽細胞の機能抑制に関与する可能性を報告している。今回私どもは、骨発育および骨代謝過程でのWntシグナルに対する『balancer』としてのsFRP-4遺伝子の機能の詳細を調べるため、sFRP-4遺伝子の開始コドンにレポーター分子LacZがインフレームに挿入されたsFRP-4-LacZノックインマウスを作製し、その性状解析を行った。その結果、(1) sFRP-4遺伝子が骨芽細胞だけでなく、骨吸収の実行細胞である破骨細胞においても発現すること、(2) sFRP-4遺伝子欠損マウスでは、Wntシグナルの活性化により骨芽細胞の機能亢進および破骨細胞の機能低下が起こること、(3)その相乗効果によって骨形成が骨吸収を大きく上回り、sFRP-4遺伝子欠損マウスの長管骨内部の骨強度が著しく増強すること、(4) sFRP-4遺伝子欠損マウスが加齢に伴う骨強度の低下に抵抗性を示すこと、などが明らかになった。
著者コメント
今回のsFRP-4遺伝子欠損マウスの解析は、所属講座教授の北澤壮平先生(愛媛大学・分子病理)が神戸大学在任時より継続して行なってきた酸化的ストレスの標的分子スクリーニング実験の集大成ともいうべき仕事で、KOマウス作成時から数えると実に8年間にも及びます。私自身のこれまでの研究は、熊本大学(現和歌山医大)・山田源研究室での発生生物学分野での仕事がメインで、本格的な骨代謝研究は、この論文が初めてだったのですが、そのような状況で、研究室にとって歴史深くかつ重要な研究テーマに深く関わることができた幸運に感謝しております。今回解析したsFRP-4遺伝子欠損マウスで見られる骨量の増加は主に海綿骨においてのみで、それとは逆に皮質骨では骨量が低下するという症状を示しますが、その違いの原因となるメカニズムはまだよくわかっておりません。また骨の症状以外にも、糖尿病合併庄への抵抗性や脂肪代謝プロセス異常をsFRP-4遺伝子欠損マウスが示すことが最近わかってきています。sFRP-4遺伝子の生体内での機能については、まだまだわからないことがありますので、その全容の解明に一歩でも近づけるように今後も研究を継続していきたいと思います。最後に、骨代謝研究での経験や知識が不足している私にご指導くださりました北澤壮平先生と北澤理子先生、初心者の私にマウス骨量解析のイロハから根気強くご教授くださりました愛媛大学プロテオセンターの今井祐記先生、そして論文共著者の皆様方にこの場をお借りして感謝申し上げます。(愛媛大学大学院医学系研究科分子病理学講座・原口 竜摩)