日本骨代謝学会

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繊毛内輸送タンパクは、古典的経路と非古典的経路の双方を介して頭蓋顔面骨格の発生を制御する

Canonical and noncanonical intraflagellar transport regulates craniofacial skeletal development.
著者:Kazuo Noda, Megumi Kitami, Kohei Kitami, Masaru Kaku, and Yoshihiro Komatsu
雑誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 May 10;113(19):E2589-97.
  • 一次繊毛
  • IFT
  • 神経堤細胞

北見 公平・北見 恩美

論文サマリー

 一次繊毛は細胞の恒常性維持や増殖・分化に不可欠なシグナル経路を調節する、極めて重要な細胞内小器官である。一次繊毛形成の際に必須である繊毛内輸送(Intraflagellar transport, IFT)を担うタンパク質の変異は、時として骨形態異常を含む“繊毛病”を引き起こす。数あるIFTタンパク質の中でもIFT20は、極めてユニークな分子である。すなわちIFT20は一次繊毛形成のみならず、T細胞など本来、一次繊毛の形成を認めない細胞においても機能していることが、近年明らかとなりつつある。骨芽細胞において、細胞外から増殖因子等の刺激を受容後、コラーゲンを始めとする骨基質の分泌が速やかに促されなければ、骨格を構築、維持することは困難となる。しかしながら、これら一連の骨制御メカニズムについては未だに不明な点が多い。そこで今回我々は、骨芽細胞への分化能を有する神経堤細胞に着目し、IFT20は一次繊毛形成、及び骨基質分泌の両過程において重要であるという仮説のもと、遺伝子欠損マウスを用いて解析を行った。

 神経堤細胞特異的IFT20欠損マウス(以下“IFT20マウス”)は、顔面骨の二分化を伴う両眼隔離症、及び前頭骨の低形成を呈した。IFT20マウスでは神経堤由来の骨芽細胞前駆細胞において一次繊毛が欠落していた。血小板由来増殖因子(PDGF)は頭部骨格形成期に機能する、重要な増殖因子であるが、IFT20マウスでは、一次繊毛の欠損に伴い、PDGFレセプター、及びAKTのリン酸化が著しく低下していた。IFT20マウスにおいて、頭部骨芽細胞の細胞増殖能は減少し、細胞死は増加していたことから、一次繊毛を介したPDGFシグナルは、頭蓋骨発生の制御に重要である事が示唆された。

 一方で、大変興味深い事にIFT20マウスにおいて、頭部骨芽細胞への分化過程そのものは正常であるにも関わらず、骨形成過程において、成熟コラーゲン線維の分泌量の減少を認めた。IFT20がゴルジを介した細胞内膜輸送に関与しているとの報告もあることから、IFT20マウスの頭部骨芽細胞において、骨基質を分泌する細胞内輸送の機能そのものが低下しているのではと仮説を立て、タイムラプスイメージング解析を行った。その結果、 野生型と比較し、IFT20が欠損した頭部骨芽細胞において、コラーゲン分子のゴルジ体内に輸送される過程が遅延していた。

 以上の結果から、頭部骨格形成過程において、IFT20は一次繊毛の形成を介したPDGFシグナル伝達機構のみならず、コラーゲン分子の細胞内輸送の制御にも関与する可能性が考えられる。(テキサス大学医学部ヒューストン校小児科・北見 公平)

北見 公平・北見 恩美

著者コメント

 ポスドクとして、初めて解析を手がけたプロジェクトがIFT20マウスの解析でした。渡米後、10日目に切片を作成し、その劇的な表現型の大きさに衝撃を受けました。野田先生(京大医学部助教)と共同で仕事を進め、表現型の発見からアクセプトまでに一年半という短期間で、論文として発表する事が出来ました。頭部顔面骨格形成において、繊毛内輸送タンパク質が一次繊毛の形成のみならず、コラーゲンの細胞内輸送にも関与する可能性を示唆した論文は、今回の私たちの仕事が初めてであり、繊毛病に分類される骨疾患の病因論の解明につながるものではと期待しています。最後に、本研究の遂行にあたり、ご指導して下さった小松義広先生に深く感謝致します。(テキサス大学医学部ヒューストン校小児科・北見 恩美)