日本骨代謝学会

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LRRK1は、骨硬化性骨幹端異形成症の原因遺伝子である

Identification of biallelic LRRK1 mutations in osteosclerotic metaphyseal dysplasia and evidence for locus heterogeneity.
著者:Iida A, Xing W, Docx MK, Nakashima T, Wang Z, Kimizuka M, Van Hul W, Rating D, Spranger J, Ohashi H, Miyake N, Matsumoto N, Mohan S, Nishimura G, Mortier G, and Ikegawa S.
雑誌:Journal of Medical Genetics, 2016, doi: 10.1136/jmedgenet-2016-103756.
  • 骨硬化性骨幹端異形成症
  • exome sequencing
  • LRRK1

飯田 有俊

論文サマリー

 骨硬化性骨幹端異形成症 (OSMD: Osteosclerotic metaphyseal dysplasia) は、管状骨の骨幹端の骨密度の上昇を特徴とする常染色体劣性遺伝の希少難病である。発達遅滞、筋緊張低下等を合併するその発症原因は不明である。

 我々は、「骨系統疾患コンソーシアム」(代表、池川志郎、西村玄)を中心として、日本、ベルギー、ドイツの医師、研究者らと共同研究グループを構築し、OSMDのゲノム解析を行った。3家系の臨床情報とDNAを収集し、そのうちの血族結婚の家系2症例について次世代シークエンサーを用いたエクソーム シークエンシング (exome sequencing) を行った。その結果、1例の患者においてLeucine-rich repeat kinase 1 (LRRK1) 遺伝子の変異を発見した。変異は、最終エキソンの7塩基が欠失するタイプで、公共の遺伝子変異/多型データベースには登録はなかった。LRRK1の最終エキソンには「WD40ドメイン」がコードされており、7塩基の欠失によってWD40ドメインが部分的に欠損し、C末端が延長した異常なLRRK1タンパク質が翻訳されると予想された。

 共同研究グループのXingらは以前の研究で、Lrrk1ノックアウト (Lrrk1-KO)マウスが重度の大理石骨病像を示すことを報告していた (1)。
 しかし、その表現型が多数のヒト大理石骨病とその類縁疾患のうち、どの疾患に対応するかは不明であった。そこで、本研究で改めてLrrk1-KOマウスのX線像と組織像を詳細に解析したところ、OSMD患者とLrrk1- KOマウスの骨格異常が極めて類似していることを見出した。また、Lrrk1は破骨細胞に強く発現し、破骨細胞分化後期の多核破骨細胞で発現量が増加することが明らかになった。さらに、Lrrk1-KOマウス由来の破骨細胞における骨吸収回復実験により、変異Lrrk1では骨吸収活性が回復しないことを認めた。

 以上の結果から、OSMD発症の原因のひとつは、LRRK1タンパク質の機能喪失による破骨細胞の機能不全であることが明らかになった。残りの2例についてもLRRK1の変異スクリーニングとhomozygosity mappingによる連鎖解析を行った。しかし、それらの症例ではLRRK1が原因遺伝子である証拠は確認できなった。OSMDの発症に関与する遺伝子はLRRK1以外にも存在すると考えられる。

 OSMDの新規原因遺伝子LRRK1の発見により、遺伝子診断、保因者診断が可能になった。これまでにはなかったOSMDの治療法の開発が期待される。現在、一部の大理石骨病関連遺伝子を分子標的として、骨粗鬆症の治療薬の開発が進み、抗RANKL抗体、抗スクレロスチン抗体などが開発されている。Lrrk1-KOマウスは、これまでの大理石骨病関連遺伝子マウスの中でも最も強い骨密度の上昇を示すので、骨粗鬆症の良い分子標的となることが期待される。

飯田 有俊
OSMD患者におけるLRRK1タンパク質の変異

飯田 有俊
骨硬化性骨幹端異形成症とLRRK1ノックアウトマウスのX線像
AとBは患者、Cは正常マウス、DはLRRK1 ノックアウトマウス

参考文献
1. Xing W, Liu J, Cheng S, Vogel P, Mohan S, Brommage R. Targeted disruption of leucine-rich repeat kinase 1 but not leucine-rich repeat kinase 2 in mice causes severe osteopetrosis. J Bone Miner Res 2013, 28:1962-1974.

著者コメント

 我々は、これまで次世代シークエンサーを用いたゲノム解析により、短体幹症、Beighton型脊椎骨端骨幹端異形成症、 早老型Ehlers-Danlos症候群、軸性脊椎骨幹端異形成症などの骨関節の遺伝性疾患、希少難病の原因遺伝子を発見してきました。希少難病の解析は、文字通り極めて少数の症例を解析します(時には1例の場合も)。このような解析にあたっての重要なポイントは、見つけた変異(原因遺伝子)の妥当性を如何に証明するか、ということになります。本研究では、ノックアウトマウスを用いて、LRRK1がOSMDの原因遺伝子であることを証明できました。この少数例からの研究が、将来大きく広がるよう、研究に励んでいきたいと思います。先生方のご協力が必要な場合があると思います。何卒よろしくお願いいたします。最後に、ご協力頂きました患者さんとご家族の皆様に深謝いたします。(理化学研究所骨関節疾患研究チーム・飯田 有俊)