
Smurf1 による骨芽細胞分化・骨形成・糖代謝の抑制にセリン(S)148は必須である
著者: | Shimazu et al. |
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雑誌: | 2016, Cell Reports 15, 27–35 |
- Smurf1
- Osteoblast
- Runx2
指導教官Gerard Karsenty先生とASBMRにて
論文サマリー
骨形成を行う細胞、骨芽細胞の分化には、転写因子Runx2が必要不可欠であることから、これまで、様々なE3ユビキチンリガーゼによるRunx2たんぱく質量の抑制メカニズムの研究がされてきた。E3ユビキチンリガーゼSmurf1については、Smurf1ノックアウトマウス(Smurf1-/-)を解析した論文は、Smurf1が骨形成を抑制する事を報告していた。しかし、Smurf1がRunx2 を標的とし骨芽細胞分化の抑制をするかは、ノックアウトマウスを使用した実験での証明はされていなかった。
他方で、細胞のエネルギーセンサーとして知られるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の役割は多岐にわたる。過去に筆者らは、AMPKがSmurf1のセリン148 (S148) をリン酸化しSmurf1を活性化することで、Runx2たんぱく質量を制御する役割を持つことをin vitroで発見し報告した。しかし、S148がSmurf1の機能に持つ重要性については、マウスレベルでの研究がされていなかった。
また、骨芽細胞は、骨形成を担うと同時に、オステオカルシン(Ocn)というホルモンを分泌する内分泌細胞である。骨基質に埋め込まれているOcnは、破骨細胞による骨吸収によって酸性になる骨基質部位で活性化され、血中に放出されることで、すい臓のインスリン分泌と末梢組織のインスリン感受性を促進し全身の糖代謝を制御する。一方、Ocnに応じて分泌されたインスリンは、骨芽細胞内のインスリン受容体(InsR)に作用することで、破骨細胞の骨吸収を活発させ、Ocnの活性を促すことで、骨代謝とOcnによって制御される糖代謝を一体化する機構が明らかになっている(図1)。
図1.オステオカルシンによる全身の糖代謝制御
骨芽細胞から分泌されたオステオカルシンは、インスリン分泌及び感受性を促し、全身の糖代謝を制御する。一方インスリンは、骨芽細胞内のInsRを介して破骨細胞の骨吸収を活発させ、Ocnの活性を促す。
これらの背景を踏まえて、本研究は、 S148をアラニンに変異(S148A)させたノックインマウス(Smurf1ki/ki)を作成し、Smurf1-/-マウスと並行して解析することにより、Smurf1そのものとSmurf1のAMPKリン酸化部位 (S148) の双方が骨芽細胞の分化と機能に果たす役割を生理学的に研究し理解することを目的とした。
結果、Smurf1 がRunx2を標的にすることで骨芽細胞分化の抑制を担う事を明らかにした。さらにSmurf1は、骨芽細胞分化、骨形成の制御のみならず、骨芽細胞内のInsRを標的にすることで、活性化されたOcnの血中濃度を制御する役割を担う事も示した。活性化されたOcnが糖代謝を制御することから、Smurf1 が骨芽細胞分化・骨形成に加えて、糖代謝の制御因子であることを示す結果となった。さらに、Smurf1ki/ki マウスがSmurf1-/-マウスと同等の表現型を示したことから、上記したSmurf1の機能にはS148が必要であることを遺伝学的に証明した(図2)。
図2: Smurf1による骨芽細胞分化、骨形成、糖代謝の制御にはSmurf1のS148は必須である
注:P; Phosphorylation(リン酸化)、InsR; インスリン受容体、OCN;オステオカルシン
したがって、本研究は、Runx2の分子制御機構と内分泌系としての骨についての理解をさらに深める結果となった。
著者コメント
米コロンビア大学Gerard Karsenty先生のご指導の下、博士課程のテーマのひとつとして本研究に取組みました。私にとって、初めて遺伝子改変マウスの作成からスタートした研究であり、分からないことが多い中、多くの先生方のご協力の下、研究を進めることができました。また、本研究は大学院生として行った最後の研究になり、辛抱強く、厳しく5年間指導をいただいた、指導教官のKarsenty先生はもちろん、コロンビア大学内の先生方だけでなく、所属を超え協力をして頂いたすべての先生方にこの場を借りて深く感謝を申し上げます。今後とも周りの先生方から学び、微力ながらも、人のためになる研究に貢献をしていきたいと思います。(コロンビア大学メディカルセンター・島津 絢子)