核酸輸送体を阻害することで破骨細胞形成を抑制する新規化合物を同定した
著者: | Katsuyama, S., Sugino, K., Sasazawa, Y., Nakano, Y., Aono, H., Morishita, K., Kawatani, M., Umezawa, K., Osada, H. & Simizu, S. |
---|---|
雑誌: | FEBS Lett. 590, 1152-62 (2016) |
- 破骨細胞
- RANKL
- 核酸輸送体
論文サマリー
本研究では、破骨細胞分化に着目し、新しい骨粗鬆症治療薬となり得る化合物の探索を行った。まず、理化学研究所の天然化合物ライブラリーを用いて、RANKLによって誘導される破骨細胞形成を抑制する小分子化合物をスクリーニングした。その結果、破骨細胞形成を抑制する新規化合物としてSUKU-1を見出した。次にSUKU-1をもとに38種の誘導体を合成し、同様に破骨細胞形成を抑制する化合物を探索した。その結果、9種の誘導体が破骨細胞形成を抑制し、その中でSUKU-33が最も強い抑制活性を示した。
SUKU-1およびSUKU-33の構造式
RANKLによる破骨細胞形成(赤く染色された巨細胞)をSUKU-33は濃度依存的に抑制した。
SUKU-33が破骨細胞形成を抑制するメカニズムを解析するために、RANKLによって活性化されるNF-κB経路およびMAPK経路に対するSUKU-33の影響を調べた。その結果、IκB-αの分解を含むNF-κB経路およびp38、ERK、JNKのリン酸化を含むMAPK経路の活性化はSUKU-33を処理しても変化が見られなかった。次に、RANKLによって誘導される破骨細胞分化関連遺伝子のmRNA発現に対するSUKU-33の影響を調べた。その結果、c-FosおよびNFATc1、TRAP、DC-STAMPを含む破骨細胞マーカーのmRNA発現はSUKU-33を処理することで抑制された。
この破骨細胞分化関連遺伝子の抑制はRNA合成阻害に起因するものではないかと仮説を立て、3H標識ウリジンのRAW264細胞への取り込み量からRNA合成阻害に対するSUKU-33の影響を調べた。その結果、予想通り、SUKU-33は破骨細胞形成および破骨細胞分化関連遺伝子発現を抑制する濃度の範囲でRNA合成を阻害した。RNA合成を阻害するメカニズムとして核酸輸送体の阻害が考えられる。核酸輸送体はENTとCNTの2種類が報告されている。そこで、ENTおよびCNTの両方の発現が確認されているBeWo細胞およびRAW264細胞を用いて、短時間での3H標識ウリジンの取り込み量から核酸輸送体に対するSUKU-33の影響を調べた。その結果、ウリジンの取り込み量はSUKU-33を処理することで抑制された。また、ENT阻害剤であるNBMPR処理では部分的にウリジンの取り込み量が抑制された。
以上の結果から、SUKU-33は2種類の核酸輸送体を阻害することで、破骨細胞分化関連遺伝子の発現を抑制し、破骨細胞形成を抑制することが示唆された。
SUKU-33の作用機序
著者コメント
本研究において、破骨細胞形成を抑制するSUKU-33は、核酸輸送体を阻害する化合物であることが示されました。現在、破骨細胞形成を標的とした骨粗鬆症治療薬の開発が進められていますが、核酸輸送体を標的とした治療薬は報告されていません。そのため、SUKU-33は新たな骨粗鬆症治療薬のリード化合物になる可能性があります。
本研究を遂行するにあたり、熱心に私たちの指導をしてくださった清水史郎先生、笹澤有紀子先生に感謝致します。また、本研究は長田裕之先生、梅澤一夫先生、川谷誠先生、杉野公美先生、青野晴美先生と共同で行ったものであります。このような先生方と一緒に研究をすることができ、更には論文までも掲載することができ、私はとても幸せです。本当にありがとうございました。(慶應義塾大学 理工学部 応用化学科・勝山 俊・中野 圭彦)