日本骨代謝学会

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がん細胞由来ケモカインCCL4とCCR5発現線維芽細胞との相互作用による、乳がん骨転移巣の形成

Essential roles of the interaction between cancer cell-derived chemokine, CCL4, and intra-bone CCR5-expressing fibroblasts in breast cancer bone metastasis.
著者:Sasaki S, Baba T, Nishimura T, Hayakawa Y, Hashimoto SI, Gotoh N, Mukaida N.
雑誌:Cancer Lett. 2016 May 10;378(1):23-32.
  • 線維芽細胞
  • ケモカイン
  • 結合組織由来増殖因子

向田 直史
(左から)佐々木宗一郎、向田直史

論文サマリー

 エストロゲンレセプター・プロゲステロンレセプター・Her2がすべて陰性のマウス乳がん細胞株4T1株をマウス乳房脂肪組織に接種し、骨内に出現した細胞を増殖させる操作を繰り返すことで、乳房脂肪組織接種後に骨に自然転移する4T1.3亜株を樹立した。4T1.3亜株は親株と比較すると、間質細胞様ならびに幹細胞様マーカーの発現が亢進していた。しかし、試験管内での増殖速度・乳房脂肪組織接種時の接種場所での増殖速度・短期遊走アッセイでの骨への遊走能のいずれでも、4T1.3亜株と親株との間では差異を認めなかった。骨内に4T1.3亜株を直接接種した際には、親株に比べて腫瘍形成能が高く、骨内の破骨細胞・骨芽細胞に変化を認めない一方で、I型コラーゲン陽性の線維芽細胞が増加していた。4T1.3亜株は親株に比べて、ケモカインCCL4の発現が亢進している一方で、CCL4の特異的レセプターであるCCR5は発現していなかった。臨床症例のデータベースの解析では、CCL4高発現の乳がん患者では無再発生存期間が有意に短縮していたことから、CCL4に着目して以下の解析を行った。

 4T1.3株のCCL4発現をshRNA法で抑制しても、間質細胞様ならびに幹細胞様マーカーの発現・試験管内での増殖速度・短期遊走アッセイでの骨への遊走能は変化しなかった。しかし、CCL4発現を抑制された4T1.3亜株を骨内に接種すると、線維芽細胞数の増加が抑制され、腫瘍形成が減弱した。CCR5欠損マウスやCCR5アンタゴニスト発現ベクターを投与したマウスの骨内に4T1.3亜株を接種した時にも、線維芽細胞の増加は抑制され、腫瘍形成も減弱した。4T1.3亜株骨内接種時の種々の増殖因子の骨内での発現を検討したところ、結合組織増殖因子(CTGF/CCN2)の発現のみが腫瘍形成と相関していた。骨内I型コラーゲン陽性線維芽細胞はCCR5とCTGF/CCN2とを選択的に発現していた。細胞培養条件下で、CCL4は線維芽細胞株の増殖とCTGF/CCN2の発現を亢進する一方で、低酸素培養条件下での4T1.3株の増殖をCTGF/CCN2は増強した。

 以上の結果から、骨転移好発乳がん細胞株が産生するケモカインCCL4の作用によって、骨内線維芽細胞での産生が誘導されたCTGF/CCN2が乳がん細胞株の増殖を促進するという、ポジティブ・フィードバック機構が、今回解析した乳がん骨転移過程においては重要な役割を果たしていると考えられた。

向田 直史
図1.乳がん骨転移過程におけるがん細胞と線維芽細胞との間での想定される相互作用

著者コメント

 乳がんにおいては、長期にわたる無症状の後で、骨転移にて再発する症例が多い。このことは、骨内にdormantな状態で存在していた乳がん細胞が、何らかの経緯で再増殖するためと考えられる。乳がん細胞でのCCL4発現亢進が、骨内の線維芽細胞による増殖因子の発現を誘導する結果、骨転移が生じる可能性が本研究から示唆された。進行期の乳がん患者の約3/4の症例で骨転移が合併し、患者の生命予後に大きな影響を与える。骨転移過程における破骨細胞・骨芽細胞の重要性は古くから報告されているが、これに加えて、従来注目されていなかった線維芽細胞も、骨転移過程を考える上では重要であることが強く示唆される結果と考えている。(金沢大学がん進展制御研究所 分子生体応答研究分野・向田 直史)