日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 山名 慶

Coordinated transcriptional regulation of bone homeostasis by Ebf1 and Zfp521 in both mesenchymal and hematopoietic lineages.

著者:Kiviranta R, Yamana K, Saito H, Ho DK, Laine J, Tarkkonen K, Nieminen-Pihala V, Hesse E, Correa D, Määttä J, Tessarollo L, Rosen ED, Horne WC, Jenkins NA, Copeland NG, Warming S, Baron R.
雑誌:J Exp Med. 2013 May 6;210(5):969-85. (Kiviranta and Yamana contributed equally to this paper)
  • Zfp521
  • Ebf1

山名 慶

論文サマリー

骨代謝は、間葉系由来の骨芽細胞よる骨形成と血液系由来の破骨細胞による骨吸収のバランスにより制御されている。骨芽細胞と破骨細胞のバランスを制御するメカニズムとしてはカップリングファクターなどの分泌因子の解析が精力的に進められてきたが、それぞれの細胞系列での転写調節機構に関しては不明な点が多く残されている。本研究で我々は、骨芽細胞と破骨細胞の両方の細胞系列で、Zfp521とEbf1がお互いに拮抗する転写調節機能を介して骨形成と骨吸収のバランスを調節することにより、骨の恒常性を制御していることを見出した。Zfp521の全身性ノックアウトマウスは骨形成が低下するとともに骨吸収が亢進することで、顕著な骨量減少が認められた。一方、Zfp521によりその機能が抑制される転写因子であるEbf1の全身性ノックアウトマウスは骨形成が亢進し、骨吸収が減少することによる骨量の増加が認められた。また、Zfp521を骨芽細胞で過剰発現させたトランスジェニックマウスは骨形成促進を伴って骨量が増加し、Ebf1の骨芽細胞特異的トランスジェニックマウスは骨形成低下により骨量が減少した。Osterix-promoterを用いて未熟な骨芽細胞からZfp521をノックアウトした場合には全身性のノックアウトマウスと同様に骨形成の低下と骨吸収の亢進による骨量減少が認められた一方で、Osteocalcin-promoterを用いてZfp521を成熟骨芽細胞でノックアウトした場合には、骨形成低下により骨量は減少したが、骨吸収に変化は認められなかった。これらのマウスの表現型とノックアウトマウス由来の細胞を用いた検討から、Zfp521は、未熟な骨芽細胞ではRANKLの発現を抑制することにより破骨細胞分化を抑制するとともに、成熟な骨芽細胞ではその分化と正常なマトリックス産生に必須の機能を有することが明らかとなった。また、Zfp521ノックアウトマウス由来の破骨細胞を用いた解析から、Zfp521はNfatc1の機能とCcl9の発現を抑制することにより破骨細胞分化を抑制することが明らかになった。Zfp521ノックアウトマウス由来の骨芽細胞および破骨細胞では、Ebf1のターゲット遺伝子の発現が亢進していることが見出された。Zfp521とEbf1がin vivoで拮抗した機能を有することを確認する目的で、Zfp521とEbf1のヘテロノックアウトマウスを交配した結果、ダブルヘテロノックアウトマウスではお互いの表現型が相殺された。これらの結果から、Zfp521とEbf1は骨量制御において拮抗する機能を有することが明らかになった。骨量は以下の主要な3つのコンポーネント、
①骨芽細胞分化と骨マトリックスの産生、
②骨芽細胞が発現するRANKLによる破骨細胞分化と骨吸収、
③血液系前駆からの破骨細胞分化と骨吸収、によって制御されている。
本研究では、Zfp521とEbf1が上記3つのすべての過程で間葉系細胞と血液系細胞の両方でお互いに拮抗する機能を有することで骨量をコントロールしていることを見出した。Zfp521とEbf1は様々な組織で発現が認められるため、今回、骨組織で認められた両分子による細胞分化とその機能の制御機構が他の組織でも働いている可能性がある。今回の研究成果が、骨代謝のみならず様々な組織の恒常性や疾患の理解の一助となることを期待している。

山名 慶

著者コメント

今回ご紹介した論文は、私がHarvard大学のBaron先生のラボに留学していた時に取り組んでいた研究に関するものです。私がBaron研に参加した時期は、ラボがYale大学からHarvard大学に引っ越した直後であり、自分にとって初めてのアメリカ生活は機能の良くわからない分子(Zfp521)の研究に加えて、ラボの引っ越し、マウスの受入れ、新しい研究室のセッティングなどが重なって、非常に刺激的な体験に満ちたスタートでした。留学中はBaron先生と研究室の仲間に助けられて、少しずつ実験データを積み重ね、皆と議論を深めていくことで何とか研究を成果としてまとめることができました。留学先のボスであるBaron先生とポスドク仲間、また、この研究の発表を通じて知り合った先生方や研究仲間は現在、私にとってかけがえのない財産になっています。(帝人ファーマ・山名 慶)