日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 嘉山 智大

腱におけるMkx制御による運動応答性分子メカニズム

Gtf2ird1-dependent Mohawk (Mkx) expression regulates mechanosensing properties of the tendon.
著者:Kayama T, Mori M, Ito Y, Matsushima T, Nakamichi R, Suzuki H, Ichinose S, Saito M, Marumo K, Asahara H.
雑誌:Mol Cell Biol. 2016 36:1297-1309. doi: 10.1128/MCB.00950-15.
  • Mohawk (Mkx)
  • メカニカルストレス
  • 腱・靭帯

嘉山 智大
左:浅原弘嗣先生 右:嘉山智大(筆者)

論文サマリー

 人体は様々な形で外部より刺激を感知する。運動器では特に大きな外力が加わるが、臓器や細胞がどのようにメカニカルシグナルを感知し、伝達シグナルへと変換され、応答するのかを解明するかが課題となっている。哺乳類の腱・靱帯は物理的圧縮やテンションに耐えうる強度を持ち、同時に関節の可動域を維持するためのしなやかさも持ち合わせている。腱・靱帯は主にI型コラーゲンとプロテオグリカンを含む細胞外マトリックスから成り立ち、その間に存在する少数の腱細胞がリモデリングを促している。

 本研究では腱・靱帯特異的遺伝子Mohawk (Mkx)が“適度な”メカニカルストレスに応答し、I型コラーゲンやプロテオグリカンであるFibromodulinなどの腱関連遺伝子を制御することによりコラーゲン繊維の形成・配列に影響を及ぼすことを発見した。in vivoではマウスのトレッドミル負荷試験を用い、適度な運動を行ったマウスではアキレス腱のコラーゲン繊維の肥大化とコラーゲン密度の増加を認めたが、これらの応答はMkxノックアウトマウスでは見られなかったことからMkxは腱の維持に関わることが示唆された。in vitroではラット由来の腱細胞を培養し、細胞伸展装置を用いて腱細胞に伸展刺激を加え、腱関連遺伝子の上昇を確認した。この運動応答性遺伝子Mkxの上流遺伝子の網羅的な解析を行った。Mammalian Gene Collectionより6000以上の遺伝子ひとつずつとMkxプロモーター領域を含むレポーターベクターと導入し、スクリーニングを行い、Mkxの制御に関わるGtf2ird1遺伝子を見いだした。Gtf2ird1は通常は細胞質において観察されるが、腱細胞の伸展により核内移行することが判明した。そしてクロマチン免疫沈降(ChIP)でGtf2ird1はヒストン修飾を介しMkxの上流に結合することが確認された。

嘉山 智大
Figure: 腱細胞に伸展刺激を加えるとGTF2IRD1の核内移行が確認された

 今まで腱におけるメカノセンシング機構は不明であったが、本研究では腱細胞がメカノシグナルを感知し、Gtf2ird1の核内移行を促進し、Mkxの転写を制御することで下流の腱関連遺伝子が発現することが解明された。この発見を基盤とすることで、治療が困難である腱・靱帯疾患の再生と修復が今後期待される。

嘉山 智大
Schematic: メカニカル刺激により、GTF2IRD1遺伝子がクロマチンリモデリングを介し核内移行し、Mkxの発現を促進する

著者コメント

 本研究では腱・靱帯特異的遺伝子Mohawk(Mkx)を基盤に、腱の伸展耐久、およびメカニカルストレスに着目しました。in vivoではマウスの適度な運動条件、in vitroでは細胞培養から細胞伸展条件の検討と結果の評価に大変苦労しましたが。最終的には何度も試行錯誤した結果、Mkx遺伝子を介した運動応答性の分子メカニズム解析に至りました。将来的にはこれらが基礎研究と臨床を繋ぐ研究に繋がればと思います。
 本研究はMolecular and Cellular BiologyのSpotlight Journalに選出され、更に国際学会Orthopaedic Research Society (2016 Annual Meeting at Orlando、Florida)の口演、ポスター発表でNew Investigator Recognition Awardを受賞することが出来ました。ご指導頂きました浅原弘嗣先生および東京医科歯科大学システム発生・再生医学分野の皆様に心より感謝致します。(東京慈恵会医科大学 整形外科学教室・嘉山 智大)