日本骨代謝学会

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非荷重環境では骨髄細胞中のカルシトニン受容体発現が亢進することによりエルカトニンは前破骨細胞の細胞癒合を抑制して骨量減少を防止する

Elcatonin prevents bone loss caused by skeletal unloading by inhibiting preosteoclast fusion through the unloading-induced high expression of calcitonin receptors in bone marrow cells.
著者:Tsukamoto M, Menuki K, Murai T, Hatakeyama A, Takada S, Furukawa K, Sakai A.
雑誌:Bone. 2016 Feb 3;85:70-80.
  • 非荷重
  • エルカトニン
  • カルシトニン受容体

塚本 学
左から目貫邦隆先生、著者、酒井昭典教授、古川佳世子先生。

論文サマリー

 カルシトニンは、破骨細胞のカルシトニン受容体を介して骨吸収抑制作用を示すことが知られており、骨吸収抑制型の骨粗鬆症治療薬として世界で広く使用されてきた。しかしながら、過去の大規模臨床試験においてカルシトニン製剤による骨密度上昇は他の治療薬(ビスホスホネート、PTH製剤)に対し劣勢を示していたため、カルシトニン製剤は骨粗鬆症治療薬としての適応を失ってしまった。その一方で、微小荷重環境に伴う廃用性骨粗鬆症に対する治療薬としての可能性を示した文献が2004年に報告された。非荷重モデル動物に対するカルシトニン製剤の効果を検証した研究がなかったことから、本研究では、非荷重モデルマウスを用いてエルカトニンが非荷重環境の骨代謝動態に与える影響を検討することにした。7週齢C57BL/6J雄マウスの尾部懸垂を7日間行い、エルカトニン 20 U/kgを3日毎に皮下投与してみたところ、尾部懸垂エルカトニン投与群(TSEL)の大腿骨遠位・脛骨近位の二次海綿骨骨量・骨密度は非投与群(TSveh)に対し有意に高値であり、非尾部懸垂エルカトニン投与群(GCEL)または非投与群(GCveh)と同等であった。TSvehに対しTSELでは、単核のTRACP陽性細胞である前破骨細胞数が有意に高値を示す一方で、成熟破骨細胞数や骨吸収マーカーである血漿TRACP-5bは有意に低値を示した。非尾部懸垂マウスよりも尾部懸垂マウスの方がエルカトニンの効果が著明であった理由として、尾部懸垂群4日目における後肢骨髄細胞中のカルシトニン受容体発現が非尾部懸垂群と比べ有意に上昇していることを示した。そして、TSEL 4日目に前破骨細胞の癒合に関わる重要な因子であるATP6V0D2のmRNA発現低下を認め、尾部懸垂マウスへのエルカトニン投与が前破骨細胞から成熟破骨細胞への癒合・成熟過程を抑制している裏付けとなった。以上の結果から尾部懸垂マウスでは、後肢骨髄細胞中のカルシトニン受容体の発現が亢進することにより、エルカトニンが前破骨細胞の癒合・成熟を抑制し非荷重に伴う骨量減少を防止することが明らかとなった。カルシトニン製剤が前破骨細胞の細胞癒合を障害することは、in vitroの研究で示唆されていたが、in vivoで証明されたのは本研究が初めてのことであった。

塚本 学
脛骨近位二次海綿骨領域における骨形態計測の結果。エルカトニン投与は尾部懸垂による海綿骨の減少を防止する。TSEL群では、成熟破骨細胞数(Oc.N/BS)は有意に減少しているが、前破骨細胞数(POCs.N/BS)は逆に増加しており、前破骨細胞の細胞癒合障害を示唆する所見である。

著者コメント

 医師7年目にして初めて研究の世界に入り、本当に多くのことを勉強させていただきました。今回の研究を通してエルカトニンの新たな一面を見ることができたのではないかと思っております。骨粗鬆症治療薬としての適応を失ってしまったエルカトニンですが、安価で安全なエルカトニンは廃用性骨粗鬆症に対する治療薬としての可能性を残しているのかもしれません。また、エルカトニンが前破骨細胞から成熟破骨細胞への成熟・癒合過程を抑制する機序については非常に興味深いものだと感じました。最後になりましたが、お忙しい中、熱心にご指導してくださいました目貫邦隆先生と酒井昭典教授には心より感謝申し上げます。今後とも何卒ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。(産業医科大学 整形外科・塚本 学)