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TOP > 1st Author > 國本 達哉

マウス大腿骨器官培養系を用いた治癒過程の骨折部における体内時計の観察

A PTH-responsive circadian clock operates in ex vivo mouse femur fracture healing site.
著者:Kunimoto T, Okubo N, Minami Y, Fujiwara H, Hosokawa T, Asada M, Oda R, Kubo T, Yagita K.
雑誌:Sci Rep. 2016 Feb 29;6:22409.
  • 体内時計
  • TGF-β
  • 骨芽細胞

國本 達哉
筆者(右)と八木田教授

論文サマリー

 体内時計はPer1/2, Cry1/2, Clock, Bmal1など一連の時計遺伝子から構成され、様々な臓器で約24時間周期のリズム(概日リズム)を刻んでいる。軟骨にも体内時計が存在することが報告されており、われわれはこれまでに、マウス大腿骨の器官培養系を用いて関節軟骨や成長軟骨に体内時計が存在することを明らかにした。骨折治癒の過程では、軟骨内骨化が進行するが、骨折治癒過程における体内時計の関与については明らかではなかった。そこで本研究では、骨折治癒過程における体内時計の存在を明らかにすることを目的として、実験を行った。

 発光によって時計遺伝子Per2の発現を可視化できるPeriod2::Luciferase(Per2::Luc)ノックインマウスの大腿骨骨幹部に骨折を作成した。骨折部の体内時計の様子を詳細に観察するため、骨折部の固定には創外固定器を用いた。創外固定器の作製は、本研究を進める中で最も苦労した部分の一つであったが、検討を重ね、予備実験を繰り返すことで、何とか信頼に足る独自の創外固定器を完成させることができた。本創外固定器を使用し、軟骨内骨化による治癒過程にある術後14日目の大腿骨を採取し、発光イメージングシステムを利用して器官培養下の骨折部を観察したところ、関節軟骨および成長軟骨板だけでなく、治癒過程にある骨折部にも、Per2::Luc活性に伴う明瞭な約24時間周期の発光リズムが認められた(図)。この結果は、治癒過程にある骨折部に体内時計が存在することを示していた。さらに、器官培養下の骨折大腿骨に、副甲状腺ホルモン(PTH)を投与したところ、骨折部で、Per2::Luc活性のピーク時刻が変化した。この結果は、PTHによって治癒過程にある骨折部の体内時計の位相が変位した(体内時計の時刻が変化した)ことを示唆していた。

國本 達哉

 今回の研究で、治癒過程にある骨折部において、成長軟骨板と同様に体内時計が存在することが明らかとなった。体内時計は軟骨における生理現象に対して重要な役割を果たしている可能性がある。しかしながらその意義の解明は未だ十分ではなく、更なる研究が求められている。PTH製剤は一般に骨粗鬆症に対し、広く臨床の現場で用いられる薬剤である一方で、骨折治癒の改善に寄与するという報告も多く存在する。PTHの体内時計の調節機構の調節作用と合わせ、同薬の時間治療への応用が期待される。

著者コメント

 体内時計の骨・軟骨領域における研究が進む近年において、未だ明らかにされていないことも多く存在します。本研究は、骨折治癒と体内時計という新たな分野への挑戦であり、何度も壁にぶつかることもありましたが、統合生理学教室 八木田和弘教授の“じっくり腰を据えてやりなさい”という言葉と、的確なご指導のおかげで、焦ることなく、大学院生という未熟な立場でありながらも自信を持って研究に取り組むことができました。また、日々、直接ご指導いただいた南陽一先生、大久保直輝先生には大変お世話になり、今回の論文が周りの方々の力添え無くしては完成しえなかったと強く感じています。最後に、統合生理学教室で研究する機会を与えてくださった久保俊一教授をはじめとする、整形外科学教室の先生方に深く感謝致します。(京都府立医科大学 生理学教室 統合生理学部門・國本 達哉)