日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 中村 幸男

変形性足関節症とその痛みは骨が主な病変である

Bone alterations are associated with ankle osteoarthritis joint pain.
著者:Nakamura Y, Uchiyama S, Kamimura M, Komatsu M, Ikegami S, Kato H.
雑誌:Sci Rep. 2016 Jan 18;6:18717.
  • 変形性関節症
  • 関節痛
  • 微小骨折

中村 幸男
信州大学整形外科骨粗鬆症グループ(一番左が筆者、真ん中は松本歯科大学田口明教授)

論文サマリー

 変形性関節症(OA)の病態は、一般的には、軟骨が変性し、二次性に軟骨下骨を中心とした骨の変形、破壊が進行すると考えられている。しかし、OAの主たる病変は骨であるという報告もある。我々は関節痛とMRIを用いた骨の信号変化の関連に注目し、痛みとOAに伴うMRI所見を、母指CM、膝、肩、足関節などにおいて報告してきた。その結果から、OAの一部の病変の主体は骨であり、軟骨の変性は骨の変性の後に生じる、という仮説に至った。

 変形性足関節症は成人の1%未満の頻度で発症する。足関節は一般的には距腿関節部を指している。約30%は特発性であり、その病態には不明な点が多い。今回は足関節症の病態にMRI所見から迫ってみた。

 痛みを伴う足関節症22症例24関節を対象とした。これらの症例を単純X線像で早期OAと進行期OAの2群に分けて検討した。24関節22関節(91.7%、早期:84.6%、進行期;100%)に足関節周辺に信号変化を認めた。保存療法により、24関節のうち22関節において痛みが完全に消失した。

 関節面に沿った信号変化は58.3%に見られ、早期では30.8%、進行期では90.9%に信号変化を生じていた。距踵関節の骨信号変化は様々な病期に生じていたが、いわゆる足(距腿)関節の信号変化は9例に見られ、8例(88.9%)は進行期の症例であった。距骨を中心とする骨内の病変は進行期では54.5%に、早期では76.9%に見られ、むしろ早期に多かった。すなわち、足関節症は距骨を中心とする骨病変から始まり、末期には骨病変を伴った距腿関節の変性を生じて難治性になると考えられた。

 我々の股関節OAの研究では、OAの程度に関係なく骨の信号変化に伴い痛みを生じ、変化が消失すると軟骨の変性は進行するが、痛みは軽快した。一方、痛みが改善しない症例では骨病変も残存していた。以上より、足関節では距骨を中心とした様々な部位の骨に病変を生じて痛みを生じ、進行すると距腿関節の変性を生じて骨病変の改善が困難になり、痛みが継続することになる、と考えられた。

 過去の報告と今回の結果からOAの一部の主な病態は“骨”にあり、その病態は微小骨折であると推察している。

 OAの治療目標は、除痛と骨関節破壊の抑制である。今回の結果より、外固定や免荷により、OAの進行が抑制できる可能性が示唆された。また、MRIを用いて早期から適切な治療を行えば、進行期OAの発症頻度は減少し、その結果、外科的治療が減少することを期待している。

著者コメント

 変形性関節症(OA)は、軟骨変性によって生じる疾患と言うのが一般的です。しかし、[1] 軟骨の変性がなくても、骨病変に伴って痛みを生じる。[2] 痛みが軽快すると骨病変は消失するが、OAは進行する。[3] 痛みが継続していると骨病変も残存する。これらの事実から我々はOAの病態の主な舞台は“骨”であると推察しています。そしてMRIで見られる病態は微小骨折と考えています。骨病変がOAの主な病態であれば骨棘を始めとしたOAに伴う骨形態の変化を説明することが容易になります。
 現在、更なる追加研究を進めております。しかし、骨病変に伴ってなぜ軟骨変性が進むのかは不明です。本研究にご興味のある先生方、ぜひご一報いただければ幸いです。(信州大学医学部附属病院整形外科・中村 幸男)