日本骨代謝学会

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Pannexin 3とconnexin 43はともに骨格形成に必要なギャップジャンクション タンパクであるが、互いに異なる機能と発現パターンにより制御している

Pannexin 3 and connexin 43 modulate skeletal development through their distinct functions and expression patterns
著者:Masaki Ishikawa, Geneva L. Williams, Tomoko Ikeuchi, Kiyoshi Sakai, Satoshi Fukumoto, and Yoshihiko Yamada
雑誌:Journal of Cell Science, 2016 Mar 1;129(5):1018-30. doi: 10.1242/jcs.176883. Epub 2016 Jan 12.
  • Gap junction proteins
  • Pannexin3
  • connexin43
  • skeletal development

石河 真幸

論文サマリー

 細胞間及び細胞外シグナルコミュニケーションは、細胞機能、増殖、分化そして死に重要な役割を担う。近年、gap junctionタンパクを介した小分子の細胞内外へのコミュニケーション機能は多分野で注目を浴びている。脊椎動物においてgap junctionタンパク質はPannexin (Panx) family (Panx1-3)とconnexin (Cx) familyが報告されている。Panxは新規のgap junctionタンパクであり、その機能は未だに不明な点が多い。

 Yamada研究室はPanx3を新たなPanx gap junction family protein として同定して、 軟骨芽細胞の増殖分化の制御に関わっていることを明らかにした (J Biol Chem, 285: 18948-18958, 2010). これまで我々は骨芽細胞増殖、分化過程においてPanx3の発現が細胞の増殖期から分化期への転換期から誘導されることを明らかにした。さらにPanx3は細胞内ATPを細胞外matrix spaceに放出するhemichannel機能、隣接細胞間にCa2+を透過するgap junction channelによりCa2+シグナルの細胞間伝搬機能があることを明らかにした。さらにはconnexin proteinsにはない小胞体(ER)膜において細胞内Ca2+濃度を調節するER Ca2+ channelの機能を持つことを明らかにした。Panx3 ER Ca2+ channelが骨芽細胞分化促進に必要であることを、またそのシグナ経路を解明した (J Cell Biol, 193: 1257-1274, 2011)。Wnt/β-cateninシグナルが骨芽細胞の増殖を促進し、BMP2が分化を促進することが知られていたが、その過程でWnt/β-catenin、BMP2シグナルがどのようにして制御されているのか不明であった。われわれはPanx3がその制御の役割をすることを明らかにした。Panx3 hemichannelのWnt/β-cateninシグナル抑制が前骨芽細胞の増殖を止め、ER Ca2+ channelやgap junctionを介した細胞内Ca2+シグナル活性が骨芽細胞の分化を促進することを解明した。つまり、Panx3は骨芽細胞分化過程において増殖期から分化期へ変換するスイッチであることを示した (J Biol Chem, 289: 2839-2851, 2014).

 次の疑問として、Panx3のin vivoにおける機能、つまりbiologicalな機能は何かである。またCx43は骨細胞に発現するもう一つのgap junction protein であり、骨形成に関与していることが知られている。それでPanx3とCx43の骨格形成の役割の違いや重複の可能性も考えられる。そこで我々はPanx3遺伝子欠損マウスを作製し、またPax3/Cx43 double KO マウスを作成し、その表現系を解析し、Cx43 KO マウスのそれと比較した。Panx3-/- 新生児マウスは軟骨性骨化および膜性骨化において異常を示し、体が小さく、骨密度の減少も示した。さらに、Panx3-/- マウスにおいて, 軟骨細胞および骨芽細胞の細胞増殖の促進及び分化の抑制が確認された。骨芽細胞増殖においてはWnt/β-catenin シグナル抑制が行われないためであること、また、骨芽細胞分化においては、骨芽細胞分化のマスター因子の一つであるOsterix (Osx)などの骨芽細胞分化マーカーの発現抑制の結果であることが分かった。そしてPanx3は転写因子Osxの発現調整を行い、ALP、Ocnといったdownstreamの骨芽細胞分化マーカーの発現を制御していることが示唆された。さらに、Panx3-/- マウスでは骨軟骨境界において軟骨細胞の最終分化期に必要な血管新生が抑制され、細胞死を遂げた軟骨細胞の骨細胞への置換に異常が認められた。つまり、Panx3はVEGFの発現調整を行うことで血管新生を促進し、結果、軟骨細胞の最終分化を進めることがわかった。

 次は脊椎動物に存在する2つのgap junction protein familyの機能の識別である。なぜ、二つのgap junction protein familyが骨格形成に必要なのか、骨形成を視点としてその大疑問への挑戦である。Panx3-/- 新生児マウスとは違ってCx43-/- 新生児マウスは頭蓋骨における石灰化不全を除いては、明らかな骨形成異常は認められなかった。しかし、Panx3-/-;Cx43-/- マウスの骨形成不全は顕著であり、体のサイズや骨の石灰化度はPanx3-/- マウスの表現系と類似するものであった。Cx43はPanx3と違って軟骨細胞において発現は認められず、骨細胞に発現が限局していた。つまりこれらの結果から、骨芽細胞分化過程においてPanx3はCx43の上流に位置し、その発現を調節していることが示唆された。さらにそれらの発現パターンはCx43が成熟期で発現が促進される一方、Panx3は初期に発現の誘導が起こり、成熟期ではその発現が減少することも明らかになった。そして、このPanx3の発現減少によるWnt/β-catenin シグナル活性化がCx43の発現調節をしていること、また、Panx3によるOsx発現上昇もCx43の発現促進を行うことがわかった。さらに機能解析においては、Panx3はhemichannel、gap junctionおよびER Ca2+ channel の三つの働きを有しているが、Cx43はER Ca2+ channelの機能は持ち得ないこともわかった。面白いことに、Cx43-/- マウス由来骨芽細胞を用いた分化実験において、Panx3の強制発現によりその石灰化不全をレスキューできたことで、明らかにPanx3はCx43の上流に位置し、異なった機能を有することが示唆された。

 このように、今回の研究において我々は、骨形成においてPanx3とCx43は明確な発現パターンの違いがあり、骨細胞ではPanx3がCx43の発現をOsxを介して制御することがわかった。Cx43発現はmaturation stageでは増加して、石灰化にその機能が関与していると考えられる。KO マウスかのcalvarial 細胞を培養して、Panx3, Cx43を強制発現の実験から、Panx3はCx43 の機能を補うころができるが、Cx43はPanx3の機能を補完するこが出来ないことがわかった。

 これらのことから骨格形成においてPanx3とCx43の発現pattern および機能の相違を有していること、またその相違の機構を明らかにできた。

著者コメント

 この論文の内容はNational Institute of Health, NIDCRのYoshihiko Yamada研究室で過ごした8年間の仕事のまさに根幹で、“こだわり”でした。九州大学歯学部から右も左もわからずアメリカに渡り、最初に携わったのがPanx3 KOマウスのtargeting vectorの作製でした。当時はZinc Finger Nuclease technology、TALENましてやCRISPRもない時代で、ATGCに向き合い、どこを何のEnzymeで切ってcassetteを入れてと頭を悩ます日々から始まりました。その当時の私の拙い英語に付き合っていただきながら熱心にdiscussionを重ねてくださったYoshi先生の姿は一生の宝になっております。核酸をいじっていたものが細胞に移り、その後、マウスという生命体として目の前に現れるというまさにbiologyの凄みを味わうことができたことも幸運でした。また研究者として必要な心構えやcommunicationの大切さを教えてもらいました。KOマウス作成と並行して、細胞を使ってPanx3の機能の解明も行いました。 他の研究室の蛍光顕微鏡のimaging の専門家から2-photon laserやCa2+ wave imagingなどの手法を学びました。NIHには沢山の研究所があり、多くの分野の専門家がいて、皆気軽に相談にのってくれます。そのことは NIHで研究することの有利な点だと思います。私もよく他の研究者の相談にのり、共同研究につながることも多くありました。細胞を使ったPanx3の機能解析での大きな発見は connexin gap junction family にはない 小胞体(ER:Endoplasmic Reticulum)Ca2+ channel 活性があることでした。それにより細胞内のCa2+ シグナルの制御を行い、この活性が骨芽細胞の分化に必要であることが分かり、またそのシグナル経路の同定もできたことは私の研究分野の節目になりました。
 初めのPanx3 KOマウスが生まれてくるときはanimal roomに張り込んで出産に立ち会ったほどでした。丁度、privateでも第一子の誕生が近づいており、mouseはabnormal、娘は無事にと毎日祈っていたことも脳裏に焼き付いている思い出です。人生でとても濃密な8年間をYoshi先生と研究ができたこと、NIDCR、NIHの仲間達との時間は勲章であり、それを今後に生かしていきたいと強く思っている次第です。(東北大学大学病院 歯科保存修復学分野・石河 真幸)