
メダカ歯交換時の歯足骨再生における骨芽細胞と破骨細胞のふるまい
著者: | Mantoku A, Chatani M, Aono K, Inohaya K, Kudo A. |
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雑誌: | Dev Biol. 2015 Dec 3. pii: S0012-1606(15)30327-4 |
- 破骨細胞
- 骨芽細胞
論文サマリー
多生歯性生物では哺乳類とは異なり、一生のうちに何度も歯の生え変わりが起こる。歯の生え代わりにおいては歯足骨のダイナミックな構造の変化が起こることが示唆されているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていなかった。
一方多生歯性生物であるメダカには、咽頭部分に咽頭歯と呼ばれる歯が多数集中して局在している。咽頭歯には歯を歯は得る骨である歯足骨と咽頭歯から成る成熟歯と、未熟な咽頭歯を持つ歯胚が存在しており、これらの歯は歯族と呼ばれる歯交換単位を形成している。歯族同士がつながりあうことで複数の歯列が形成されている。
本研究では、メダカ咽頭歯の歯交換時の歯足骨の改変において、破骨細胞と骨芽細胞の協調した働きが重要であることをTRAP-GFP/osterix-DsRedダブルTgラインを用いてin vivoで示した。
歯足骨がどのように代謝されているのかを調べるために骨二重標識法を行った。結果、歯足骨は常に歯列のposterior側で形成され、anterior側で吸収されていた。歯の生え変わりと歯足骨の代謝との関係を組織切片によって確認したところ、吸収面において歯足骨が吸収されることで歯が支えを失い脱落し、形成面において萌出後の歯の直下に歯足骨が形成されることで成熟歯へと成長していた。
歯足骨の代謝に骨芽細胞と破骨細胞がどのように関与しているのか調べるために、TRAP-GFP/osterix-DsRedダブルTgラインを用いて織解析を行った。その結果、骨芽細胞は列の形成面に特に集中して局在し、多核破骨細胞は吸収面に局在していた。
骨芽細胞と破骨細胞の骨モデリングにおける機能を調べるためにそれぞれの細胞の機能のノックダウン実験を行った。まず、c-fms-a遺伝子を欠損した変異体を作製し、組織解析を行った。結果、変異体において破骨細胞が減少していることが明らかになった。さらに成熟歯列を構成している歯足骨の幅が増加していた。しかし、骨芽細胞の数及び骨形成能に大きな差はなかった。
またColX-NTR-GFP Tgメダカを作製し、骨芽細胞のコンディショナルな除去実験を行った。メトロニダゾール処理によって骨芽細胞の除去を試みたところ、骨芽細胞のアポトーシス後に破骨細胞が劇的に減少することが、稚魚のライブイメージング及び成魚の歯足骨におけるTRAP染色より明らかになった。
以上のことから歯足骨において、骨芽細胞は破骨細胞の生存を調節することで歯の生え変わりに伴った歯足骨の代謝を制御することが示唆された。
著者コメント
ダイナミックな骨組織の改変を司る仕組みである骨モデリングは、in vivoにおける解析が必要不可欠である。一方でマウスのような哺乳動物において骨組織は巨大で複雑であり、破骨細胞や骨芽細胞の働きが、実際どのように骨組織の改変を担っているのかは解析しにくい。等研究では、骨研究の主流なモデル生物であるマウスではなく、メダカが持つ、歯足骨列というシンプルな骨構造における、骨モデリング様の骨改変と、それに伴った破骨細胞及び骨芽細胞の働きについて解析した。歯足骨の代謝は骨モデリングの特徴を持ちながらも、扱いやすく簡略化されたシステムであり、優れたモデルであると言える。(東京工業大学大学院生命理工学研究科(博士課程修了)・萬徳 晃子)