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間葉系幹細胞 (MSC)の新規マーカー候補分子Meflinの同定

Identification of Meflin as a Potential Marker for Mesenchymal Stromal Cells.
著者:Maeda K, Enomoto A, Hara A, Asai N, Kobayashi T, Horinouchi A, Maruyama S, Ishikawa Y, Nishiyama T, Kiyoi H, Kato T, Ando K, Weng L, Mii S, Asai M, Mizutani Y, Watanabe O, Hirooka Y, Goto H, Takahashi M.
雑誌:Sci Rep. 2016 Feb 29;6:22288. doi: 10.1038/srep2228
  • 間葉系幹細胞
  • Meflin
  • 骨分化

前田 啓子

論文サマリー

 間葉系幹細胞(MSC; mesenchymal stem/stromal cell)は骨髄や全身臓器の血管周囲に局在し、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化能を持つ組織幹細胞の一つである。骨髄では骨髄間質細胞として存在している。MSCを用いた再生医療や細胞移植療法は多様な疾患に対して応用が期待されている。しかしながら、MSCの生物学的機能や治療効果をもたらす機序は未解明の点も多く、その理由の一つとしてMSCを特異的に識別する単一マーカー分子が同定されていないことが指摘されていた。

 今回私達はMSCに発現する新規の細胞表面マーカー分子としてMeflin(別名ISLR)を同定しその機能を解析したので報告する。Meflinは細胞外ロイシンリッチリピートと免疫グロブリン様ドメインを有するGPIアンカー型分子である。Meflinはマウス各臓器の血管周囲線維芽細胞に発現しており、上皮、内皮、及び平滑筋細胞には発現を認めなかった(図1)。骨では骨髄類洞周囲の骨髄間質細胞、幼若な骨芽細胞及び軟骨芽細胞に発現していた(図1)。またMeflinは未分化なMSCの分画(PDGF受容体α鎖、Sca-1陽性)で発現が高く、ヒトおよびマウスMSCを骨芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞へ分化させると分化誘導数日でMeflinの発現は著明に低下した。一方、Meflinを外因性に発現させた細胞では骨芽細胞、軟骨細胞分化に伴って誘導される各分化マーカーの発現が有意に抑制された。Meflinノックアウトマウスは生後発育の低下、長管骨伸長の促進、骨芽細胞の数と表面積の増加、骨髄由来細胞のコロニー形成率の低下という表現型を示した(図2)。Meflinが骨芽細胞への分化を阻害する機序としては骨芽細胞への分化を制御する転写因子であるForkhead box O1 (FoxO1)の核内移行を抑制する機能が考えられた。以上の結果からMeflinはMSCが未分化な状態を保持するために重要な分子の一つと推定され、またその発現様式からMSCのマーカー分子となり得る可能性が示唆された。

前田 啓子
図1:メフリンは骨髄類洞周囲細胞、各臓器の血管周囲に局在する。

前田 啓子
図2:メフリンノックアウトマウスは生後発育の低下、長管骨伸長の促進を示す。

前田 啓子
図3:メフリンは骨髄間質細胞の骨分化、培養ディッシュ上での自己複製能および未分化能維持に関与する。

著者コメント

 大学院博士課程へ入学し腫瘍病理学教室で基礎実験を教えていただきました。なかなか結果を出せず苦しい時期が続きましたが、未知のことに対し、一つ一つデータを積み上げて仮説を立証していく研究の世界にとても魅力を感じました。熱心にご指導いただいた高橋教授、榎本准教授、4年間基礎研究をさせていただいた後藤教授を初めとして多くの先生方に心より感謝を申し上げます。(名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍病理学・前田 啓子)