日本骨代謝学会

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骨細胞は骨細管系を通し、骨中ミネラルを溶解する

Osteocyte-directed bone demineralization along canaliculi
著者:Nobuhito Nango, Shogo Kubota, Tomoka Hasegawa, Wataru Yashiro, Atsushi Momose, Koichi Matsuo
雑誌:BONE 84 (2016) 279–288
  • カルシウム溶解
  • カルシウム恒常性
  • 骨細胞・骨細管

南郷 脩史

論文サマリー

 血液中のカルシウム濃度は恒常性を保つことが必須であり、血液中のカルシウム濃度が低下すると破骨細胞が骨表面を溶かすことで、血液中にカルシウムを供給すると、これまで考えられてきた。しかし、破骨細胞が存在しないFosKOマウスでも生存し得ることから、破骨細胞以外にも、カルシウム濃度維持を担う細胞の存在が示唆されていた。

 今回、私達は新たに開発した微分位相法とデフォーカス法を組み合わせたマルチスキャン三次元X線顕微鏡観察法により、マウスの脛骨を直径0.3mmの棒状に加工した試料を、大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用町)において観察した。

 微分位相法には回折格子を2枚用いるタルボ干渉計が使われており、X線の屈折を検出し、骨組織の密度変化を高感度で三次元的に可視化することができる。デフォーカス法は骨組織のエッジを強調した撮像法で骨細管の描出が可能であり、両者を組み合わせることで骨細管とその周りの石灰化度を表す画像を得た。

 この画像解析の結果、骨細胞から延びる骨細管の周りで、骨のカルシウム濃度が骨細管の直径(0.1~0.4μm)に比べて10~30倍の大きな範囲で減少する様子を捉えた。

 骨細管に平行な断面を見ると、骨細管に沿ってカルシウム濃度が低下していた(図2矢印)。骨細管に直交する断面では、ほとんどの骨細管(図3赤点)の周りで、骨細管に近いほどカルシウム濃度が減少していた(図3矢印)。

 骨領域は、骨細管周囲のカルシウム濃度の低下が著しい低カルシウムエリア、周囲と変わらないカルシウム濃度を持つ高カルシウムエリア、両者の中間のカルシウム溶解エリアに分けることができた(図2)。骨細胞周囲のカルシウム沈着(図3白矢頭)は低カルシウム側では消失した(図3黒矢頭)。高、中、低濃度のエリアはカルシウム溶解作用の経過時間を反映すると考えられた。

 骨細胞は、無数の骨細管を経由し、骨表面とつながっており、骨細管周囲で溶解されたカルシウムは毛細血管へ流れ出す。一方、血液中のカルシウムは骨細管を経由して、骨内に広がると考えられた。低カルシウムエリアができた後、骨内に広がったカルシウムは時間をかけて骨に蓄えられ、カルシウム濃度の回復が行われるものと考えられた。(図1)

 骨細管に沿った骨カルシウムの溶解現象には、条件の異なるマウス骨試料の検索から、次のような特徴が観察された。
[1] 週齢に関係なく観察された。
[2] 破骨細胞が存在しないFos KOマウス,RANKL KOマウスでも観察された。即ち、破骨細胞とは独立して、骨細胞が骨細管周囲のカルシウムを溶かすと考えられた。
[3] 授乳期のマウスの試料でも、カルシウム溶解を示す結果が多く得られた。
[4] 血中のカルシウム濃度を増加させるように働く上皮小体ホルモン(PTH)をマウスに人工的に与えると、PTHを与えないマウスより骨細管の周りのカルシウム濃度が低下した。

 以上より、骨細胞と骨細管のネットワークは骨中カルシウムを溶解、蓄積する作用を持ち、本作用は、骨組織の構造的変化を伴わないと考えられた。

南郷 脩史
図1:骨細胞から伸びる骨細管周囲におけるカルシウム溶解

南郷 脩史
図2:高感度三次元X線顕微鏡による4週齢マウスの脛骨
骨細胞から伸びる無数の骨細管は毛細血管、骨表面とつながる(矢印)。
骨細管に沿ってカルシウムが溶解(矢印)。

南郷 脩史
図3:骨細管に直交する断面画像
ほとんどの骨細管(赤い点)の周りでカルシウムは溶けていた。骨細胞周囲のカルシウム沈着(白矢頭)は低カルシウム側では消失(黒矢頭)。

今後の展開
 多くの骨減少症治療薬は破骨細胞の骨破壊作用を抑える働きをしている。しかし、骨が生まれ変わる作用が抑制されると古い骨が残ってしまうため、骨をもろくしてしまうという副作用がある。今回の成果によって、破骨細胞による骨破壊を伴う作用と、骨細胞による骨破壊を伴わない作用の両者をコントロールすることで、副作用を伴わない治療方法の開発が期待できる。

著者コメント

 論文の主な結果は5年前の実験で得られており、2011年の日本骨代謝学会でのポスター発表の際、諸先生方から、仕事などしないで早く論文を出しなさいとコメントを頂いていた。そのように切望しつつも、私の周りでの時間はたつのが早すぎ、今に至ってしまった。最大の反省点である。
 SPring-8における実験では、テーマを申し込み、審査を受ける必要があるが、利用時間を確保することは、なかなか困難であった。動物実験の後、針のように細い骨サンプルを部位方向を間違わないように作成する。最終工程の厚さ300μmは指研磨で仕上げる。手間と体力の必要な実験である。放射光撮影は割り当てられた時間4~5日を交代で半分徹夜し、時間ロス0で行う。ところが、必ず一回程度はリングの故障で実験がストップする。天に祈る思いで回復を待つ。SPring-8の本装置でしか出来ない実験なのでこれからも辛抱強く進めていきたい。(ラトックシステムエンジニアリング株式会社・南郷 脩史)