日本骨代謝学会

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スクレロスチンは3T3-L1細胞における脂肪細胞分化を促進する

Sclerostin enhances adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells
著者:Mayumi Ukita, Taihiko Yamaguchi, Noboru Ohata, Masato Tamura
雑誌:Journal of Cellular Biochemistry, 2016 Jun;117(6):1419-28.
  • スクレロスチン
  • 脂肪細胞
  • 骨細胞

浮田 万由美

論文サマリー

 sclerostin (Sost gene product) は骨細胞が産生する分泌タンパク質である.Sost変異によって骨形成が促進し骨量が増加することや抗sclerostin抗体による骨量の増加から骨形成を負に制御する因子として知られている.近年,臨床研究から,血中sclerostin濃度と脂質代謝との相関が報告されており,骨細胞が産生する因子が脂肪細胞に作用する可能性が示唆されているが,その詳細は明らかではない.そこで,本研究では3T3-L1細胞培養系を用いて,sclerostinの脂肪細胞分化に及ぼす効果とその機構を検討した.

 3T3-L1細胞の脂肪細胞分化系に組み換えsclerostinタンパクを加えて培養したところ,細胞内の脂肪滴蓄積が増加し脂肪細胞分化関連mRNAの発現も増加したことから,sclerostinは脂肪細胞の分化を促進しうることが明らかになった.Canonical wntは脂肪細胞の分化を抑制することが知られているので, Wnt3aとsclerostinの両方を加えて培養したところ,Wnt3aにより脂肪細胞の分化が抑制しsclerostinはこの抑制を減じた.3T3-L1細胞ではWnt co-receptorのLRP4/5/6のうちLRP5/6が発現していたので,sclerostinはこのLRP5/6を介して作用した可能性が考えられた.次に,sclerostinが脂肪細胞分化を促進する機構について検討した.Sclerostin添加により,細胞増殖やアポトーシス誘導に変化は見られなかったが,脂肪細胞分化初期に一過性に発現増加する転写因子C/EBPβの発現が増加していた.また,sclerostinにより3T3-L1細胞のTAZ (transcriptional co-activator with PDZ binding protein)の活性は抑制された.TAZをノックダウンした3T3-L1細胞では脂肪細胞の分化が促進し,sclerostinの添加は分化をさらに促進した.以上の結果から,sclerostinは転写因子C/EBPβの発現促進とTAZの活性制御により3T3-L1細胞における脂肪細胞の分化を促進させる,という機構が考えられた.

 本研究により,骨細胞が産生するsclerostinは3T3-L1細胞における脂肪細胞分化を正に調節することが明らかになった.近年の臨床研究から,ヒト血中のsclerostin濃度と脂質代謝との相関が報告されたが,骨と脂肪組織の連携にsclerostinが関与しうることが示唆された.

著者コメント

 幼い時から,いつか白衣を着て試験管を振ってみたい!と思っておりました.
大学院では冠橋義歯補綴学教室に入局しましたが,基礎医学の研究をしたいという希望を聞き届けていただき,学部の実習でお世話になった口腔分子生化学教室で研究をさせていただけることになりました.が,研究テーマに出てきた言葉が「脂肪」.「歯学部なのに脂肪!?」と,唖然となったのを昨日の事の様に思い出しては,自分の無知さを恥じるばかりです.このような研究成果に辿りつけたこと,そして嬉しいことに,今では研究に取り組む真摯さと,骨と脂肪に魅せられてしまったのは,田村教授の辛抱強いご指導の賜物です.また,貴重な研究の機会を与えて下さり,医局に顔を出せない時も着かず離れず見守ってくださった山口教授をはじめ, 支えて下さった全ての方々にこの場をお借りして御礼申し上げます.(北海道大学大学院歯学研究科 冠橋義歯補綴学教室・浮田 万由美)