日本骨代謝学会

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骨修復過程でのSDF-1による骨髄幹細胞の誘導

Stromal cell-derived factor-1 mediates changes of bone marrow stem cells during bone repair process
著者:Okada K, Kawao N, Yano M, Tamura Y, Kurashimo S, Okumoto K, Kojima K, Kaji H.
雑誌:Am J Physiol Endocrinol Metab 2016 Jan 310: E15-E23.

岡田 清孝

論文サマリー

骨組織には、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、マクロファージなどが存在し、骨髄には、造血幹細胞や間葉系幹細胞を含む骨髄細胞が存在する。間葉系幹細胞は、骨芽細胞や骨細胞に分化することや、破骨細胞が造血幹細胞由来の単球・マクロファージ系細胞から分化するが報告されている。また、stromal cell-derived factor-1(SDF-1)やstem cell factor (SCF)、thrombopoietin (TPO)などの因子は、骨髄での幹細胞維持に関わることが報告されている。しかし、骨損傷後の骨修復再生過程での骨髄幹細胞の詳細な役割については、未だ不明である。今回私共は、骨損傷が骨髄幹細胞におよぼす影響とその機序について検討した。マウスの右大腿骨に外科的に骨欠損部位を作り、骨損傷モデルを作成した。骨髄および脾臓細胞中の造血幹細胞と間葉系幹細胞を各細胞マーカーに対する標識抗体を用いたフローサイトメトリー(FACS)により解析した。骨損傷後、骨損傷側の大腿骨骨髄造血幹細胞は、非損傷側と比較して、2日目に低下し、その後回復した。一方、骨損傷側の骨髄間葉系幹細胞は、2日目に増加し、その後回復した。脾臓の幹細胞分析では、このような変化がみられなかった。次に、骨損傷の骨髄幹細胞変化におよぼす影響へのSDF-1とその受容体であるC-X-C chemokine receptor 4(CXCR4)の関与を検討した。抗SDF-1中和抗体の骨損傷部への局所投与やCXCR4アンタゴニスト(AMD3100)の腹腔内投与は、骨損傷により誘導される骨髄幹細胞の変化を阻害した。また、定量CTによる骨損傷後の修復能解析では、抗SDF-1中和抗体の骨損傷部への局所投与により修復遅延が見られた。Green fluorescent protein (GFP)-Tgマウス骨髄細胞を移植したレシピエントマウスでは、骨損傷後、破骨細胞とマクロファージにGFP陽性細胞が見られた。

以上のことから、骨損傷により、骨損傷から遠位部ではなく、近接した部位の造血幹細胞が減少し、間葉系幹細胞が増加することが明らかとなった。その機序として、骨損傷により局所で誘導されるSDF-1が関与することが示唆された。

著者コメント

 私は今まで、蛋白分解活性制御による組織再生機構に興味を持ち基礎研究を行なってきました。数年前より梶博史教授のもとで骨代謝研究の分野に足を踏み入れました。それまでと違う研究分野で一からのスタートでしたが、梶教授の的確なご指導により、骨/骨髄を中心とした組織再生研究に楽しみを感じるようになりました。今回、骨損傷後の修復再生過程でのSDF-1を介した骨髄幹細胞の誘導について報告させて頂きましたが、今後も骨/骨髄細胞との相互連関とそれらに関わる因子の解明から骨修復再生機構を明らかにし、再生医療への発展を目指して研究を行なっていきたいと思います。最後に、本研究にご協力頂いた多くの先生方に深く感謝申し上げます。(近畿大学医学部 基礎医学部門研究室/再生機能医学講座・岡田 清孝)