日本骨代謝学会

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FIB/SEM tomographyによる頭蓋骨骨膜の錨着構造の解明

Anchoring structure of the calvarial periosteum revealed by focused ion beam/scanning electron microscope tomography.
著者:Hirashima S, Ohta K, Kanazawa T, Uemura K, Togo A, Yoshitomi M, Okayama S, Kusukawa J, Nakamura K.
雑誌:Sci Rep. 2015 Dec 2;5:17511.
  • 骨膜
  • FIB/SEM
  • 三次元解析

平嶋 伸悟
(左から)楠川、平嶋、中村

論文サマリー

 骨膜は、骨の微小環境や機能を維持するために必須の組織であり、メカニカルストレスに抵抗し、骨と接着していることで、骨芽細胞や幹細胞等の細胞ソースとして骨の成長・維持と骨折治癒に重要な役割を果たしている。臓器の機能は周囲の組織や臓器と密接に関連しており、移植や再生医療においては対象とする臓器だけでなく、周囲組織の考慮も重要である。骨膜の組織細胞構築についての詳細な理解は、より効果的な骨再生医療の発展につながることが期待される。

 骨膜を含む軟組織は高エネルギー外傷や手術を除き、通常の外力で剥離されることはない。骨膜は単一で釘状にみえるPerforating fibreと呼ばれるコラーゲン線維束により骨と接着していることが知られているものの、強い錨着力を示す機序については明らかでない。

 これまでに蛍光顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて多くの解析が行われてきた。骨周囲には多量のコラーゲン線維が存在し、1断面の観察ではそれらの線維とPerforating fibreとの判別は難しく、硬組織という試料の扱いの難しさもあって、骨膜線維層におけるPerforating fibreの解析は困難であった。

 近年、収束イオンビームを搭載した次世代型走査型電子顕微鏡(FIB/SEM)が開発された。この装置はイオンビームでの試料表面の切削と、SEMでの表面観察を自動で繰り返し、連続画像を得るというものである。これら連続画像の再構築(FIB/SEM tomography法)により3次元微細構造解析と定量解析が可能となった。

 我々は骨膜の錨着力に寄与する構造を明らかにするため、FIB/SEM tomography法を用いて骨と接着した状態の骨膜の連続超薄切片と3次元微細構造を解析した。その結果、Perforating fibreは互いに連結し、net-like structureを形成していることが明らかとなった。加えて、perforating fibreは骨面に対して約30度で穿孔することが明らかとなった。

 個々のPerforating fibreは連結することでメカニカルストレスに対する抵抗力を強めていると考えられる。また、ミニスクリューを骨に固定する際、30度という穿孔角度は、側方への外力に強い抵抗を示し、60度と90度という穿孔角度よりも物体内部へ伝える応力が大きいことが報告されている。つまり、Perforating fibreは側方力に対して強い抵抗力をもち、また骨内部へ効率よく応力を伝える構造であることを示唆している。

 [まとめ] 我々は骨膜に存在するPerforating fibreのnet-like structureとその穿孔角度を明らかにした。骨膜の錨着構造は細胞ソースとしての機能とメカニカルストレスの伝達装置としての機能を支持する。今回得られた知見はより効果的な骨再生医療の発展の一助となるものと思われる。

平嶋 伸悟
Figure 6. Three-dimensional structure of perforating fibres. (a-1, a-2) The perforating fibres are connected to each other and form net-like structures as opposed to nail-like. (b-1,b-2) Magenta arrows show the connecting region of the perforating fibres. C, cambial layer (in light blue). P, perforating fibre (in purple). Bar scales, 5 μ m for panels a-1 and a-2; 7 μ m for panels (b-1,b-2).

平嶋 伸悟
The angle of insertion of the perforating fibre

著者コメント

 骨折治療や歯周外科、骨再生医療において、重要とされる骨膜と骨との微小環境に興味をもったことがこの研究を始めたひとつのきっかけでした。当初は骨膜を利用した新たな骨再生療法を模索しましたが、研究テーマ決定に時間を要しました。「再生療法を考えるには、まず目的の組織の正常構造を正しく把握することが重要ですよ」と中村桂一郎教授からアドバイスを頂き、骨膜の錨着構造に疑問をもったことが本研究を始めたもうひとつのきっかけです。この研究の結果が骨膜の新たな知見として、基礎医学、硬組織における新たな形態解析法ひいては骨再生医療の発展の一助となれば幸いです。論文として報告するまでにかなりの時間を要しましたが、御指導頂いた中村教授をはじめとする先生方には心から感謝申し上げます。(久留米大学医学部 解剖学講座 顕微解剖・生体形成部門/歯科口腔医療センター・平嶋 伸悟)