日本骨代謝学会

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小胞体膜局在転写因子Lumanは細胞融合因子DC-STAMPの転写と細胞内局在を制御することで破骨細胞の成熟化に関与する

Luman is involved in osteoclastogenesis through the regulation of DC-STAMP expression, stability and localization.
著者:Kanemoto S, Kobayashi Y, Yamashita T, Miyamoto T, Cui M, Asada R, Cui X, Hino K, Kaneko M, Takai T, Matsuhisa K, Takahashi N, Imaizumi K.
雑誌:J Cell Sci. 2015 Dec 1;128(23):4353-65. doi: 10.1242/jcs.176057. Epub 2015 Oct 26.
  • 破骨細胞
  • 細胞融合
  • 小胞体局在転写因子

金本 聡自

論文サマリー

 破骨細胞は、その骨吸収機能を十分発揮するために、単核の破骨細胞が融合し、多核化かつ巨大化することがよく知られている。しかしながら、破骨細胞が細胞融合を起こす分子メカニズムについては、まだ完全には明らかとなっていない。本研究では、通常状態で小胞体に局在する1回膜貫通型の転写因子Lumanが破骨細胞の分化、成熟に関与していることを明らかにした。

 今回、破骨細胞分化過程において小胞体膜局在転写因子LumanがRANKL刺激に応じて転写誘導され、かつ活性化されて転写因子として働くことを見出した。破骨細胞の分化誘導過程でLumanをノックダウンすると、単核の破骨細胞同士の細胞融合が阻害され、多核化した破骨細胞への成熟化が抑制された(図1)。

金本 聡自

 破骨細胞の細胞融合には、細胞融合因子DC-STAMPが必須因子の1つとして知られている。LumanをノックダウンするとDC-STAMPの発現が低下しており、逆にLumanを過剰発現させた場合、DC-STAMPの発現が誘導された。LumanがDC-STAMPの発現を直接誘導するか調べる目的でプロモーターアッセイおよびゲルシフトアッセイを行ったところ、LumanがDC-STAMPのプロモーター上に結合して発現調節していることが示唆された。

 Lumanは活性化される際にゴルジ体へ輸送され、そこでプロセシングを受ける必要がある。一方、DC-STAMPは細胞融合の際に細胞膜へ移行していることが報告されていることから、DC-STAMPは小胞体で合成された後、ゴルジ体を経由して細胞膜へ輸送されると考えられる。そこで、両者の細胞内局在を検討した。HeLa細胞に対し、FLAG標識したLumanを単独で遺伝子導入すると、Lumanは小胞体に局在した。一方、HA標識したDC-STAMPを単独で遺伝子導入した場合、DC-STAMPも小胞体に局在するパターンを示した。ところが、興味深いことに、LumanおよびDC-STAMPを同時に遺伝子導入した場合は、LumanおよびDC-STAMPは小胞体だけでなくゴルジ体にも局在することが分かった(図2)。

金本 聡自

 両者の細胞内局在が一致することから、両者の相互作用について免疫沈降実験で検討した。その結果、LumanとDC-STAMPが相互作用することが分かった。この両者の相互作用の意義を明らかにするために、Lumanと結合できない変異型DC-STAMPを作成し、その細胞内局在を解析したところ、Lumanと結合できないDC-STAMPはプロテアソーム系によって速やかに分解されることが明らかとなった。プロテアソーム阻害剤を用いて変異型DC-STAMPの分解を抑制してみると、変異型DC-STAMPはLumanと共存させても小胞体に留まり、ゴルジ体への移行は阻害された。

 以上のことから判断して、Lumanは破骨細胞分化の際に、細胞融合因子DC-STAMPの発現を誘導する転写因子として働くだけでなく、DC-STAMPを小胞体からゴルジ体へと輸送する役割も担っており、破骨細胞の分化・成熟化に小胞体からのシグナル発信が関与していることが示された。

著者コメント

 本研究を始めるまで主に神経系の研究を行ってきた私にとって、破骨細胞の研究を立ち上げることになった時、右も左も分らない状態で、破骨細胞の分化誘導もままならない日が続きました。そのような中、松本歯科大学の高橋直之先生、小林泰浩先生、山下照仁先生、また慶應義塾大学の宮本健史先生から、懇切丁寧なご指導及びご助言を賜わり、ようやく研究を軌道に乗せることができました。また、大阪大学の西村理行先生からもご助言を頂き、愛媛大学の今井祐記先生からはRAW264細胞を、東京大学の北村俊雄先生からpMXベクターおよびPlat-E細胞をご提供いただきました。このように多くの先生方のご助力のおかげで本研究を論文として纏めることができました。今後は、破骨細胞の分化に小胞体からのシグナルがどのように関与し、制御しているのか詳細を明らかにし、破骨細胞が関連する各種疾患の発症メカニズム解明や治療への応用に繋げられるよう精進して研究を進めていきたいと考えています。本研究の遂行にあたり、共著者の先生方や研究室の皆様、並びにご協力頂いた全ての方に深く感謝申し上げます。(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 分子細胞情報学・金本 聡自)