日本骨代謝学会

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IL-1Raは、MMP-13発現に対して直接的な抑制作用を示す

Interleukin-1 Receptor Antagonist Has a Novel Function in the Regulation of Matrix Metalloproteinase-13 Expression.
著者:Goto H, Ishihara Y, Kikuchi T, Izawa A, Ozeki N, Okabe E, Kamiya Y, Ozawa Y, Mizutani H, Yamamoto G, Mogi M, Nakata K, Maeda H, Noguchi T, Mitani A.
雑誌:PLoS One. 2015 Oct 16;10(10):e0140942.
  • 歯周病
  • IL-1Ra
  • 上皮細胞

菊池 毅・後藤 久嗣
(左から)三谷章雄、後藤久嗣、菊池 毅

論文サマリー

 インターロイキン-1(IL-1)は、細胞内シグナル伝達を引き起こすリガンドであるのに対して、IL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)はIL-1レセプターに結合し、IL-1αやIL-1βのIL-1レセプターへの結合を阻害することにより、IL-1の活性を調節し、IL-1のインヒビターとして働くリガンドとして知られている。

 歯と歯肉の付着部分のなかで、上皮性付着部分はエナメル質と上皮細胞がヘミデスモゾーム結合することで成り立っている。そのヘミデスモゾーム結合は細胞外マトリックスであるラミニン5と、接着分子のインテグリンα6β4により構成されている。matrix metalloproteinases(MMPs)は細胞外マトリックスを破壊する酵素群であり、骨芽細胞と線維芽細胞において、MMP-13はIL-1により誘発されることが報告されている。さらに、MMPのうち特にMMP-13はラミニン5γ2鎖を分解することが知られている。

 以上より、IL-1Raは歯周病の進行を制御する重要な分子であることが示唆されるが、歯周病の病態において認められる付着の喪失についての検討は行われていない。そこで、本研究では、IL-1Raが上皮性付着の喪失に与える影響について検討した。

 上皮性付着に対してIL-1Raが与える影響を調べたところ、Ca9-22細胞(ヒト口腔上皮細胞株)のIL-1Ra発現を抑制することで細胞外マトリックスと接着分子に関する遺伝子のうちMMP-13が最も影響を受けていた。Ca9-22細胞のコントロール群での恒常的なIL-1の産生量はIL-1αが35 pg/mL、IL-1βが4 pg/mLであったが、IL-1Raノックダウン群でのIL-1αの産生量は有意に減少し、IL-1βの産生量は変化を認めなかった。また、IL-1の中和抗体を作用させた結果、明らかなMMP-13発現抑制作用は認められなかった。このことから、IL-1RaのノックダウンによるMMP-13発現増加はIL-1の影響によるとは考えられないと考察した。IL-1受容体を介したIL-1Raの特異的な作用は未だ解明中ではあるが、今回の結果よりMMP-13の発現抑制に対してIL-1Raが直接的に関与している可能性が示唆された。

 一方、動物実験にて、接合上皮部におけるMMP-13とラミニン5の局在を調べた。その結果、接合上皮部におけるMMP-13の局在はA. a感染IL-1Ra KOマウスにおいて最も多く確認された。また、未処置IL-1Ra KOマウスと比較してA. a感染IL-1Ra KOマウスにおいて、より根尖側にMMP-13の局在が認められた(写真2)。さらに、接合上皮部におけるラミニン5の局在はWTマウスにおいて顕著に認められた。一方でIL-1Ra KOマウスにおいてほとんどその局在は認められなかった。このことから、MMP-13とラミニン5の局在は相反し、MMP-13の発現増加に伴いラミニン5の発現が低下すると考えられた。そして、A. a感染により炎症反応が促進された歯周組織において、IL-1Raの欠落状態は付着の喪失に対してより促進的に作用することが分かった。

菊池 毅・後藤 久嗣
マウス歯周組織におけるMMP-13発現
(左から)無感染野生型マウス、A.a感染野生型マウス、無感染IL-1Ra欠損マウス、A.a感染IL-1Ra欠損マウス

 IL-1RaはMMP-13の機能を阻害することで付着の喪失抑制による歯周組織の保護に対して重要な役割を担っていることが明らかとなり、将来アナキンラのようなIL-1Raを用いた歯周病治療薬としての可能性が示唆された。(愛知学院大学歯学部歯周病学講座・菊池 毅)

著者コメント

 この研究テーマは、私が愛知学院大学大学院歯学研究科博士課程の大学院生として最初に取り組んだ研究でした。右も左もわからぬ状態で、失敗を繰り返しながら実験データを積み重ね、一喜一憂するなかで皆と議論を深めていくことで研究を成果として纏めることができました。本研究論文において御懇篤なる御指導と御閲覧を賜りました、愛知学院大学歯学部歯周病学講座・三谷章雄教授、菊池毅准教授、そして松本歯科大学歯科保存学講座(歯内)・石原裕一教授に深甚なる謝辞を表します。(愛知学院大学歯学部歯周病学講座・後藤 久嗣)