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Smad3の欠損はS1P/S1P3シグナル経路を介して下顎頭軟骨変性を生じる

Smad3 Deficiency Leads to Mandibular Condyle Degradation via the Sphingosine 1-Phosphate (S1P)/S1P3 Signaling Axis.
著者:Mori H, Izawa T, Tanaka E.
雑誌:Am J Pathol. 2015 Oct;185(10):2742-56.
  • Smad3
  • 変形性顎関節症
  • 軟骨

森 浩喜

論文サマリー

 変形性関節症(OA)は顎関節を含む全身の関節の骨軟骨破壊を特徴とするが、その病態形成機構については不明な点が多い。TMJ-OAは関節面の退行性変性を本態とし、下顎頭吸収・変形が顔面変形に関連している可能性が指摘されている。その結果、TMJ-OAは顎変形症を発症する要因となり、矯正治療中に発症した場合には治療目標が達成できないことなどが問題となる。したがって、TMJ-OAにおける下顎頭軟骨破壊機構を解明することが歯科臨床の一助となり、その基礎的背景を明らかにすることがきわめて重要となる。また近年、S1P/S1PRの発見によって、骨代謝系において軟骨細胞の遊走能、分化・活性化機構の解明が急速に進歩してきている。しかしながら、同疾患における全身の関節破壊機構の究明は行われているものの、顎関節における詳細な機構解明は行われていない。

 本論文は、OAの自然発症モデルとして知られているSmad3ノックアウトマウスにおけるTGF-β/Smad3シグナルとS1P/S1PRシステムのクロストークを介した軟骨細胞の機能について詳細に解析を行った研究である。Smad3ノックアウトマウス下顎頭を形態学的に解析した結果、骨密度の低下がみられ、組織学的解析においてはOA様状態、軟骨細胞領域の著しい減少、アポトーシス分子陽性細胞の増加がみられた。さらに関節軟骨組織内では、MMPの発現亢進とAggrecan、Col2aの発現低下を認めた。in vitro実験ではSmad3遺伝子発現抑制を行うことで、TGF-β刺激下においてアポトーシス分子の亢進、細胞遊走亢進効果の抑制、Rho-GTPの発現低下がみられた。また、Smad3ノックアウトマウス下顎頭軟骨においてS1PR(1∼5)ではとりわけS1P3の著しい発現低下がみられた。さらに、in vitro実験においてS1P3遺伝子発現抑制を行うことで、Smad3遺伝子発現抑制を行った時と同様に、TGF-β刺激下での細胞遊走亢進効果の抑制、Rho-GTPの発現低下が認められた。

 以上の結果より、TGF-β/Smad3シグナルとS1P/S1P3シグナルのシグナルクロストークにより軟骨細胞の遊走能が制御されており、Smad3/S1P3シグナル経路が健常な顎関節の恒常性維持ばかりでなく、変形性顎関節症の病態形成においても重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの所見は、顎関節を含む歯科領域にとどまらず、医療全体の発展に大きく寄与し、OAを含む骨系統疾患の診断・予防といった新たな炎症性疾患治療法の開発を含む臨床応用に大きな意義を有し多くの患者の健康維持・QOL向上に貢献すると期待される。

(図1)
森 浩喜

(図2)
森 浩喜

著者コメント

 Smad3ノックアウトマウスを前任者から引き継ぎ始めた研究でした。ノックアウトマウスがなかなか生まれず、必要な週齢まで成長しないことも多くあり同期より遅れての論文投稿となりましたが、田中栄二教授、井澤俊助教をはじめ、徳島大学口腔顎顔面矯正学教室の皆様のおかげで一つの実を結ぶことができました。この場をおかりして、厚く御礼申し上げます。(徳島大学大学院 口腔科学教育部 口腔顎顔面矯正学分野・森 浩喜)