日本骨代謝学会

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大腿骨頭壊死症における骨頭圧潰の発生メカニズムのFEMによる解析-境界領域における骨硬化性変化の重要性-

The role of sclerotic changes in the starting mechanisms of collapse: A histomorphometric and FEM study on the femoral head of osteonecrosis
著者:Karasuyama K, Yamamoto T, Motomura G, Sonoda K, Kubo Y, Iwamoto Y
雑誌:Bone. 2015 Sep 25; 81: 644-648.
  • 大腿骨頭壊死
  • 圧潰
  • FEM

烏山 和之
集合写真の右から2番目が著者、右から3番目が山本先生

論文サマリー

 特発性大腿骨頭壊死症は、骨頭が圧潰することにより発症し、最終的には股関節破壊へと至らしめる原因不明の難治性疾患である。圧潰は本疾患の予後を左右する最も重要な因子であるが、圧潰の発生メカニズムはいまだ不明である。これまでに提唱されている圧潰メカニズムには、壊死域と健常域の境界において添加骨形成(壊死骨梁を新生骨梁が覆う修復パターン)を伴う肥厚骨梁と壊死骨梁の間にかかるshear stressが重要であるとするものと(Bullough et al. Ann Rheum Dis. 1990, Motomura et al. JBJS Br. 2011)、境界域における破骨細胞性骨吸収が誘因であるとするものがある(Kenzora et al. Orthop Clin North Am. 1985, Li et al. J Orthop Res. 2009)。本研究は、境界域における骨硬化や圧潰の有無により、境界域での応力分布がどのように変化するかを有限要素解析を用いて評価し、加えて破骨細胞活性についても病理組織学的に検討した。

 大腿骨頭壊死症に対し、人工関節置換術を施行した際に切除された3骨頭を用いた。各骨頭より、健常域のみからなる1標本、圧潰(−)骨硬化性変化(−)の境界域を含む2標本(Type1)、圧潰(−)骨硬化性変化(+)の境界域を含む2標本(Type2)、圧潰(+)骨硬化性変化(+)の境界域を含む2標本(Type3)を採取した。CTデータを用いて有限要素解析(TRI/3D-FEMを用いて解析)を行った。

 健常域およびType1の標本では、von Misesの相当応力、8面体せん断応力、8面体せん断ひずみ、およびシミュレートした破壊領域は、解析範囲全体に均等に分布していた(図1)。一方、Type2と3の標本では、境界域の肥厚骨梁に沿って応力やひずみは集中しており、破壊領域に一致していた(図2)。さらに、健常域および各タイプの標本に対しTRAP染色を行った結果、圧潰後の境界域(Type3)においてのみ、破骨細胞数は有意に増加していた。

 本研究は、せん断応力とせん断ひずみが骨性修復反応の進んだ境界域に集中することで同部が圧潰の起点となりうることを示した。さらに、圧潰が生じない限り、境界域における破骨細胞活性は増強しないことも判明した。以上より、境界域における骨硬化性変化は、圧潰発生に重要な役割を果たしていると考えられた。

(図1)
烏山 和之

(図2)
烏山 和之

著者コメント

 特発性大腿骨頭壊死症において、圧潰を来した場合は人工股関節全置換術や大腿骨骨切り術などの手術が必要となります。しかし、なぜ骨頭の圧潰を来すのかはまだ不明であり、そのため圧潰を防止する有効な治療法も未だ確立していません。今回の検討の結果、境界域における骨性修復反応の進行により発生するせん断応力とひずみにより、圧潰が生じる可能性が示唆され、さらに境界域における破骨細胞による骨吸収が原因ではないこともあわせて示されました。今後、骨形成が圧潰に及ぼす影響を明らかにする必要があるため、さらなる研究に励みたいと思います。ご指導賜りました全ての先生方に、この場をお借りして心より感謝申し上げます。(九州大学大学院医学研究院整形外科・烏山 和之)