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関節リウマチ患者に対するアレンドロネート・リセドロネート週1回製剤からミノドロネート月1回製剤への変更効果の検討

Effects of switching weekly alendronate or risedronate to monthly minodronate in patients with rheumatoid arthritis: a 12-month prospective study.
著者:Ebina K, Noguchi T, Hirao M, Hashimoto J, Kaneshiro S, Yukioka M, Yoshikawa H.
雑誌:Osteoporos Int. 2016 Jan;27(1):351-9
  • 関節リウマチ
  • 骨粗鬆症
  • ミノドロネート

蛯名 耕介
写真左より筆者、吉川秀樹教授、平尾眞先生、野口貴明先生

論文サマリー

 関節リウマチ(以下RA)患者においてはTNF-α・IL-6・IL-17などの炎症性サイトカインにより破骨細胞の誘導が増強され、骨吸収が亢進することが報告されている。またRA治療に用いられるグルココルチコイド(ステロイド)は骨細胞や骨芽細胞のアポトーシスを誘導し、骨折リスクを高めることも知られている。実際にRA患者においては健常者と比較して骨折リスクが約3~6倍と高率であり、大腿骨頚部の骨密度と炎症反応・骨代謝回転が負の相関を示すこと、また骨量の減少が関節破壊の進行とも相関することが報告されている。その結果、骨吸収抑制剤による治療を受けていても骨吸収が十分に抑制されず、骨量減少や骨折を来す例も散見されるが、依然として経口製剤による骨粗鬆症治療を希望される患者も多い。ミノドロネート(以下MIN)は本邦で開発された経口ビスフォスフォネート(BP)製剤であり、アレンドロネート(以下ALN)やリセドロネート(以下RIS)より強く破骨細胞内のfarnesyl pyrophosphateの合成を阻害し、アポトーシスを誘導することが報告されている。我々は経口ALNやRIS週1回製剤で治療されているRA患者において、MIN月1回製剤への変更が骨吸収抑制効果を増強し、骨量を増加させ得るのではないかと仮定して本研究を行った。

【方法・対象】
大阪大学とその関連病院で経口ALNもしくはRIS週1回製剤による加療を行っていたRA患者172名に対し、MIN月1回製剤への変更希望の有無を確認し、[1]ALN・RIS継続希望群(ALN 58名・RIS 30名/BP内服期間43.6ヶ月/64.9歳/低疾患活動性以下64.8%/プレドニゾロン(PSL)1日内服量2.5mg/PSL内服率70.5%/生物学的製剤併用率25.7%)・[2]ALNからのMIN変更希望群(44名/BP内服期間57.2ヶ月/64.9歳/低疾患活動性以下75.0%/PSL1日内服量2.2mg/PSL内服率72.7%/生物学的製剤併用率18.2%)・[3]RISからのMIN変更希望群(40名/BP内服期間41.0ヶ月/67.3歳/低疾患活動性以下72.5%/PSL1日内服量1.7mg/PSL内服率62.5%/生物学的製剤併用率22.5%)の3つに群分けした。開始時より12カ月間の前向き試験で、6か月毎の骨密度(腰椎・大腿骨近位部・大腿骨頚部)と骨代謝マーカー(TRACP-5b・PINP・ucOC)、および継続率・服薬満足度を評価した。観察期間中に骨代謝に関与し得る併用薬剤(Ca・VitD・VitK製剤)の変更は行わなかった。

【結果】
[1]ALN・RIS継続群と比較して、③RISからのMINへの変更群では12か月後に有意に腰椎(1.2 vs 4.1%)・大腿骨近位部(-0.7 vs 1.9%)・大腿骨頚部(-0.5 vs 2.7%)の骨密度が増加し、骨代謝マーカー[TRACP-5b(2.5 vs -37.3%)・PINP(-6.2 vs -24.7%)・ucOC(13.0 vs -29.2%)]が低下した。一方[1]ALN・RIS継続群と比較して、[2]ALNからMINへの変更群では12か月後に有意に腰椎(1.2 vs 3.2%)・大腿骨近位部(-0.7 vs 1.5%)の骨密度が増加し、TRACP-5b(2.5 vs -12.5%)が低下した。一方、MINへの変更群においてこれらの骨代謝マーカーの平均値はいずれも基準値範囲内であり、骨代謝回転の過剰抑制は認められなかった。また、アンケート調査よりMINへの変更患者の80.8%が変更に満足しており、88.7%が週1回より月1回製剤の方が望ましく、69.8%が内服頻度の軽減がその理由であると回答していた。以上の結果より、比較的低疾患活動性で低用量のPSLを内服しているRA患者においてALNやRIS週1回製剤からMIN月1回製剤への変更は有効な骨粗鬆症治療選択肢となる可能性が示唆された。一方で高疾患活動性や高用量のPSL内服患者に対する効果や、実際の骨折予防効果については更なる検討が必要と考えらえる。

著者コメント

RAに合併する骨粗鬆症では、既存の骨粗鬆症治療を行っていても十分に骨代謝回転が抑制できずに骨量が減少したり、骨折を招く症例を経験します。そのような方々にMIN月1回製剤が有効な治療選択肢となり得るのではないかと考えたことが本前向き研究を始めたきっかけでした。患者様への説明や同意書の所得、並びにデータ収集や解析など非常に多くの苦労を伴いましたが、当科大学院生の野口貴明先生らの頑張りにより論文として完成させることが出来ました。関節リウマチの治療は日進月歩ですが、我々のグループは手術・薬物療法や基礎・臨床を問わず、少しでも患者様の治療成績向上に役立てるような研究を心がけています。最後になりましたが、日頃より研究を御指導・御協力頂いています吉川秀樹教授、並びに大阪大学整形外科の皆様方にこの場をお借りして心より感謝申し上げます。(大阪大学大学院 医学系研究科 整形外科・蛯名 耕介)